誰もが心地よく生きるためにはどうすればよいかを提案する 末廣 将
北鎌倉 Salon Brillare主宰 末廣 将
KDDI research atelierが2021年より始動した「FUTURE GATEWAY」。ここは、KDDI総合研究所がこれまで培ってきた先端技術を活用しながら、先進的なライフスタイルを実践する人々を中心に、多様なパートナーとこれからのスタンダードをつくっていくための共創イニシアチブです。当シリーズ[MY PERSPECTIVE]では、そんなFUTURE GATEWAYに関わる人々の価値観に迫り、共に未来社会を考えていきたいと思います。
今回登場するのは、本来の自分を表現して軽やかに生きるライフスタイルを提案するサロン『北鎌倉 Salon Brillare』の主宰でありt'runnerの末廣 将。自分自身の経験をもとに、どうすれば心地よく生きることができるのかを、生きづらさを抱える多くの人たちに伝える活動をしています。その活動に込められた想いや今後の意気込みについて聞きました。
心地よく生きるためのワークショップ、講演、1on1
- FG:
末廣さんが現在取り組まれている活動について教えてください。
- 末廣:
心地よく生きられるライフスタイルの提案をしています。
提案の仕方には三つのメニューがあります。一つ目は、体験型ワークショップ(以下、WS)。二つ目は、講演。三つ目は、オーダーベースの1on1(以下、1on1)となります。
WSは、参加者に私の家に来てもらい、私の暮らしを一緒に体験していただきます。その中で、心地よく生きるためには、どういうことを意識して暮らすことが必要かについて、私の体験に基づいてお伝えするというものです。
講演は、私のライフスタイルに関心のある方に集まってもらい、お話するというもの。これは、地方を中心に行っています。
1on1は、WSとは逆に、私が参加者の家を訪問し、お家を心地よくするにはどうすればよいかを、マンツーマンでサポートするというものです。お家を心地よくすると言っても、どうやったら心地よくなるのか、また、どこから手を付ければよいかがわからないという方の要望に応えるためのメニューとなります。
- FG:
WSではどのようなことをされるんですか?
- 末廣:
先日行ったWSでは、私の家に来てもらい、自分が心地よく暮らすために実践してきたことをお話しました。
具体的には、ただ部屋に物がなければよい、少なければよい、捨てればよいというわけではなく、心地よくいるために必要なものを取捨選択する基準をどうするのかをお話しし、その後、質疑応答を行います。このようにして、参加いただいた皆さんが心地よく生きるためのご自身のものさし、判断軸をつくるお手伝いをしています。
- FG:
WSにはどういう方がいらっしゃるのですか?
- 末廣:
対象は絞っていません、どなたにもお越しいただきたいと思っています。先ほどお話したWSは、平日の日中開催だったので、30代、40代を中心にその上の年齢の女性の方たちが参加されました。遠方では、富山県や北海道からの参加者もいました。
- FG:
WSの頻度はどれくらいですか?
- 末廣:
まだ始めたばかりなので、月1回くらいの開催です。今年の春先からは、週1回になりそうです。今回のWSに参加された皆さんに、ここにもう一回来たいと言ってもらえたので、WSの開催頻度を増やすことが一番いいかなと思っています。
末廣 将(すえひろ・しょう)/本来の自分を表現して軽やかに生きるライフスタイルを提案するサロン『北鎌倉 Salon Brillare』主宰。自らの経験を踏まえ、自身のサロンや地方で開催するワークショップを通じて新たなライフスタイルを提案している。
- FG:
講演の場合は、どのように末廣さんのライフスタイルを伝えるのですか?
- 末廣:
投影資料に沿ってお話をするスタイルです。私が心地よく生きるために何を意識しているかということのすべてを講演だけでお伝えするのは限界があります。よって、講演でフォーカスするのは、私自身のライフスタイルの変化についてです。実は20代中盤まで、部屋には不要な物が堆積していて、心地よく生きる暮らしとは無縁でした。そこから今の状態に至るまでに、何を意識してどう行動したのか、についてフォーカスしてお話しています。
- FG:
講演のテーマはどのように決めているのですか?
- 末廣:
テーマは自分で決めます。こういうことが聞きたいというオーダーがあればそれをコンテンツに盛り込みますが、基本的に心地よく生きられるライフスタイルの提案がポイントなので、それが中心になります。先日の講演のタイトルは、「風の時代のライフスタイル」でした。このタイトルでいろいろな話ができます。暮らしにフォーカスしてもいいし、料理の話をしてもいい。自分の住む家が整ってくると仕事も整ってきます。そのように、暮らしから派生したいろいろなテーマでお話をさせてもらいます。
- FG:
講演に参加されるのはどのような方たちですか?
- 末廣:
基本的なきっかけは、私のライフスタイルを知って興味を持たれた方、SNSや動画等の発信で私の在り方やメッセージに興味を持っていただいた方になります。地方の講演は土日開催なので、世代は幅広い方に申し込みをいただいています。
実家で母にマンツーマンのライフスタイルコンサル
- FG:
オーダーベースの1on1の場合は、どのような進め方になるのですか?
- 末廣:
始めたばかりで実績はまだないのですが、今まさに依頼を受けておりまして、さてどうしようかという段階です(笑)
実は、昨年の初めころから、実家で母にマンツーマンのライフスタイルコンサルを試してみました。母も昔はきれい好きだったのに、歳をとってからモノが捨てられなくなり、家にモノがあふれていました。そこで、「値段が高かったとか、お客様が来たときに困るとかがあると思うけど、まず、今必要なモノだけにしよう」、と助言しました。何が心地よいか、何を選びたいかを考えることから始めてみる。引き出しの中をきれいにすると、気持ちがよくなる。どうやってモノを選べばいいかが分かる。捨てることで本当に好きなモノが分かる。
こうして、どうやってモノを選んだらよいかが分かると、ほかの引き出しもきれいになって、キッチン全体が整理されて快適になる。それがどんどん家の中以外にも派生していきます。モノだけでなく、ご近所との付き合いでも、趣味などの活動も、流れで人付き合いしている方がたくさんいます。
1on1では、心地よくなるためにモノや人付き合いをどう選べばよいかを伝授しますが、実際に何を選ぶのかはご自身で決めていただきます。その人それぞれで整理する対象は、モノや空間ではなくて、「コト」になるかもしれません。
- FG:
末廣さんのされていることは、断捨離とどう違うのでしょうか?
- 末廣:
根本的には一緒です。断捨離という考え方を広めた「やましたひでこ」さんは私も大好きです。整理術の本はたくさん出ていますが、どれも考え方として伝えていることは同じだと思います。整理術だけではなく、ライフスタイル系で発信している人たちとも根底にある価値観はかなり似ています。その人たちとの違いは、私自身の視点と個性で発信させていただいているところです。
「断捨離」という言い方だと「やましたひでこ」さんの表現になるので、私が伝えたい「心地よく生きられる」を今後、どう端的に表現していったらいいかなと思っています。
都市的な暮らしから自然との共生へ
- FG:
現在の活動に至った経緯や思いについて教えてください。
- 末廣:
この活動に至った経緯は二つあるかなと思います。
一つは3年から4年くらい前に、生きづらいと思っていたことがあって、なんでこんなに生きづらいのかと考えてみたんです。仕事はうまくいっているし、特に生活に困ってはいない、自分のやりたかったことがやっとできるようになったにもかかわらず、充足感がなく、虚無感がある、なんでだろうと。そこからいろいろ勉強し始めました。
「やましたひでこ」さんの本や心理学の本、潜在意識や量子力学の本など、山ほど本を読み、生きづらさを改善しようとしました。
二つめは、同じころ、社会課題にも興味を持っていて、ライフスタイルや暮らしに関心があった私は、食と環境というテーマを知りました。また、いろいろと調べる中で、動物性の食生活は環境負荷が高く、植物性中心の食生活が身体によいということを知り、試験的にヴィーガンを実践していました。そんな時に知人から気候変動と食の関係の未来づくりの活動をされているMayu*さんを紹介いただきました。当時は、ヴィーガン実践中の私とMayuさんの活動との親和性が高く、彼女とはいろいろなお話をさせてもらいました。* Mayuさん:気候変動と食の関係の未来をつくる Quisine代表。FUTURE GATEWAYに参画するt’runnerのメンバー
そこから行き着いた解が今の活動になります。本当にシンプルな暮らしをするとモノを買わなくなります。洋服も持たなくなる。自分軸でモノを選ぶようになると、百貨店にあんなにたくさんの服が並ぶ必要はないことが分かる。消費者は商品を比べないと選べないから、百貨店側もさまざまな色の服をつくって並べざるを得ない。
消費者が本当に自分にとって心地よい色を選ぶようになれば、生産者側も大量廃棄につながるような量の服をつくる必要はなくなるように思います。
簡潔に結論を言えば、みんなが心地よく暮らすことで多くの社会課題は解決できるというのが、現時点での私の考えです。
- FG:
現在のライフスタイルは、自然との共生に重きを置いているのですか?
- 末廣:
徐々に自然の側に寄るようになったという感じです。本をたくさん読んで、毎週土日は全国を飛び回って農業に従事している人や林業の人のところに行ったり、自分のリソースをつぎ込んで勉強して、考え方やライフスタイルのアップデートを重ねてきました。
- FG:
都会的な暮らしから現在の自然との共生に至るまでは、最短距離で来たという感じですか?
- 末廣:
自分なりに段階を踏んでここまできたと思います。
現在のレベル感とはまったく違いますが、自然とはいつも関わってきました。ここに来る前は埼玉県に住んでいたのですが、国道沿いに一坪くらい畑を借りて野菜をつくっていました。買った野菜がおいしくないなと感じて、おいしい野菜を食べたいと思ったんです。子どものころ、山口県の田舎に住んでいて、土をいじって育ちました。実家は農家ではありませんが、家の目の前には田んぼが広がっていました。周りは兼業農家が多く、畑を手伝わせてもらったりしていました。タケノコ掘りなども普通にしていましたし、そのころと同じ事をしたいと思いました。
- FG:
都会的な暮らし方とは、ご自身の中でギャップが生まれそうですね。
- 末廣:
今振り返れば、都会的な暮らしを経験することで、それとは対極にある自然と共生することの大切さを知ることができたのだと思います。そこを経験しなかったら、今のようなライフスタイルにはならなかったでしょう。
江戸時代の暮らしには戻れない
- FG:
「ウェルビーイング」と「サステナブル」の両立の実現を追求しているそうですが、その二つをどう捉えていますか?
- 末廣:
同じものだと思っています。結局、持続できないとウェルビーイングはあり得ないですし、ウェルビーイングなしに、持続は不可能だと思っていますので、サステナブルは目指すものではなく、結果、そうなるものだろうと。
この洋服は持続可能だとか、動物性の食材は環境負荷が高いと言ったことを、あまり問題視せずに生活するのが大事だと思います。そう考えすぎると無理や我慢が生じたり、視野狭窄になってしまう。問題っぽく見えるものを解決しようとすると、別の力学がはたらく気がします。例えば、ゴミがたくさん出るとして、そのゴミを再生して使う技術がある。でも、再生するためのエネルギーもたくさん必要になることもある。前提として、人が生きていく限り、最低限のゴミは出てしまうと考えないと無理がある。今から私たちが江戸時代の暮らしに戻れるわけではない。枯渇性資源の使用や有害なゴミの排出をゼロにできるならそれに越したことはないけれど、仕方がないものがあります。無理という前提に立てば、ご迷惑をおかけすることを前提として、いかにその迷惑を減らすかを考えればよいことになる。例えば、上質なオーガニックのモノを買って心地よく使う。長く使えば、人はモノを買わなくなります。断捨離した人は、みんなモノを買わなくなります。なぜなら、本当に必要なものを認識できるようになり、不要なモノを買わなくなるからです。そうするとお金に余裕ができるので、厳選された上質なモノしか持たなくなる。その結果、生活の質が上がります。そうなると、10年とか20年持続するモノしか買わなくなる。サステナブルってそういうことだと思います。
誰かとコラボして、違う要素を取り込みたい
- FG:
今後の目標やチャレンジしてみたいことはありますか?
- 末廣:
今やっていることが形になりつつあるので、この活動を大きくしていきたいです。まず、WSの数を増やしたい。すぐにはできませんが、地方でもWSを増やしたいですし、外国でもやってみたいです。
また、私の視点だけだと、たまに刺激が欲しくなります。誰かとコラボして、違う要素を取り込みたい。だから、仲間が増えるといいなと思っています。例えば、私は音楽家ではないので、音楽家と何かをやるとか、いろんな形があると思います。まだまだ私なりの“色”が確立されていないと思うので、いつか違う方の“色”を取り入れた活動もしてみたいです。
- FG:
では最後に、FUTURE GATEWAYでの今後の活動について教えてください。
- 末廣:
お互いに共鳴する人がいたら、楽しいことができる可能性があると思っています。私がFUTURE GATEWAYの仲間に入れてもらったときはまだ勉強中で、自分の中に確固たるものがなかったので、関わり方が自分の中で明瞭でない部分があった気がします。しかし、今はこうだなと思うものがしっかりとあるので、私の価値観を素敵だと思ってくれる人がいたら、一緒にコラボしたいとは思います。FUTURE GATEWAYに参加されている皆さんとは、やっていることや考え方は違うけれど、走っている道は大枠で一緒な気がします。