



データサイエンスと美容でライフスタイルに変容を。まだ見ぬ未来をつくる METRIKA COO 澤村俊剛 × NORA hair salon代表 広江一也
METRIKA COO 澤村俊剛 × NORA hair salon代表 広江一也
KDDI総合研究所が2021年に立ち上げた「FUTURE GATEWAY」。KDDI research atelierがこれまで培ってきた技術を生かしながら、新しいライフスタイルを実践する人々とともに、これからのスタンダードを作っていくための共創イニシアチブです。この連載では、そんな「FUTURE GATEWAY」に関わる人々の価値観に迫り、一緒に未来を考えていきたいと思います。
今回登場するのは、「FUTURE GATEWAY」立ち上げからの事務局メンバーであるMETRIKA COOの澤村俊剛さんと、NORA HAIR SALONの代表・広江一也さん。これまで複数のプロジェクトに横断的に取り組んできた澤村さんとともに、新たなプロジェクトの構想を始めているというNORA HAIR SALONの広江さん。業界の中でも注目を集めるNORA HAIR SALONですが、「FUTURE GATEWAY」という場所で、お二人はどんなことを考えているのか。お話を伺いました。
手探りから生まれた“FUTURE GATEWAY”というコミュニティ

澤村俊剛 株式会社METRIKA,Inc. 取締役 COO。1989年奈良県出身。同志社大学でサスティナブル経済学を学んだのち、2013年パーソルキャリア株式会社 (旧インテリジェンス) 入社。戦略人事部 新卒採用部において、西日本採用拠点の立ち上げ。その後、企業OBの豊富な知見を社会に還元する社内ベンチャー 「i-common」に異動し、西日本拠点を立ち上げる。事業企画として東京に赴任後、新規事業開発担当としてテック・クリエイター領域へのサービス拡大を行う。2021年に誰もがデータを使いこなせる社会づくりを目指し、株式会社METRIKAを創業。大阪で創業70年を超える家業の再生や、社会起業家を育成するPhoenixiのシニアフェローとして、気候変動対策の事業開発にも挑戦中。
- FG:
澤村さんが携わったFUTURE GATEWAY立ち上げの経緯を教えてください。
- 澤村:
KDDI総合研究所の木村寛明副所長から、今までとは違うオープンイノベーションの仕組みをつくりたいというご相談を受けたのが始まりです。構想を聞いた時に、これは日本でも類がない仕組みになると感じました。そこで、国内外の事例を比較して、モデルを検討しつつ、まずは議論の骨格をつくるためのメンバーを集めました。それが今のFUTURE GATEWAYの事務局チームです。先進的なライフスタイルの実践者、コミュニティづくりのプロ、空間づくりのエキスパートに集まってもらいました。
- FG:
現在のFUTURE GATEWAYにおける澤村さんの立ち位置は?
- 澤村:
FUTURE GATEWAY自体の企画運営を主に担当しています。たとえば、FUTURE GATEWAYのカルチャーをどのように設計するのか。どのようなコミュニティメンバーに集まって欲しいのか。メンバーが集まる施策の企画などです。他にはプロジェクトフェーズ設計や、ワークショップの企画・メンバー選定、連携先企業とのパートナーリングなどです。
- FG:
その一方でプロジェクトにも参加されているのですね。
- 澤村:
現在は大きく分けて3つのプロジェクトに関わっています。1つ目は、農業にまつわるプロジェクト。都心の社員がより身近に農業を感じ、プロボノ的に農家さんと繋がれる仕組みを検討しています。農業における慢性的な人手不足を解消しつつ、従業員の心身の健康を同時に叶えたいと思っています。専門知識がなくとも、ARグラスなどテクノロジーの組み合わせによって就農のハードルを下げたいです。2つ目は3Dフードプリンターのプロジェクトです。廃棄されてしまう野菜や果物を、3Dフードプリンターのインクにすることでフードロスを削減します。テクノロジーと食との掛け合わせによって食の新たなエンタメ要素を開拓しつつ、社会課題の解消に寄与したいと考えています。
最後が今回同席いただいたNORAさんとの美容室プロジェクトです。美容室で人が求める“かわいさ”や“かっこよさ”“綺麗さ”とは何か、データで紐解いていきたいと考えています。僕はデータサイエンスの会社にいて、大きな企業のデジタル戦略や、製造工程におけるAI導入をお手伝いしているのですが、データを機械から得るのは実は簡単です。だけど、人間は一人ひとり違う。そこが難しいけれど、面白いと感じています。私たちが普段何気なく使っている“かわいい”や“かっこいい”などの言葉にもルールがあるはず。その要素を分解して、定量化したいと考えています。
“髪を切る”だけじゃない。美容室は、更なる可能性を秘めている。

広江一也 NORA hair salon代表取締役。関西美容理容専門学校(現グラムール美容専門学校)出身。7つの選定基準によってベストオブカリスマ美容師を選定する<カミカリスマ>では2年連続5部門で星を獲得。独自の顔分析理論でその人らしさを引き出し似合うスタイルを提案。ヘアサロン経営のほか、経済産業省「COOL JAPAN」事業の香港イベントへの参画や2007年にはグッドデザイン賞を受賞。
- FG:
今回は美容室NORAへお邪魔したわけですが、美容室プロジェクトの発案の経緯を伺えますか?
- 澤村:
僕自身、新型コロナウイルスが流行して移動が制限された際に、生活のなかで定期的に通う場所が、オフィスと美容室しかありませんでした。コロナ禍でオフィスのあり方は大きく見直されたと思います。一方で、美容室側に大きな変化は見られませんでした。一方で、ユーザー側のニーズは外側の美しさから、内側へと向かっていきました。美容室の滞在時間って結構長いんです。カラーやパーマを含めたら3、4時間くらいかかるケースもありますよね。もっと空間と時間を有意義に楽しむために、デジタルで切り込んでいける余白が多そうだと感じたことが、お声がけの最初の理由でした。
- FG:
NORAさんについても簡単にご紹介をお願いいたします。
- 広江:
NORAは、南青山に本店を置く美容室です。お店の名前は「人形の家」という戯曲の主人公・ノラからきています。自立した女性の象徴としてよく引用される名前なんです。私たちはもちろん美容室なので、お客様をかっこよくしたり綺麗にしたりすることは当然だと考えています。でも美容には、それを越える可能性があるとも思っています。ただ容姿を綺麗にするだけではなく、データの活用を含めてライフスタイルをデザインしたいんです。
- FG:
NORAさんは空間自体のつくり方やテクノロジーへの関心など、唯一無二の要素がたくさんあるように感じます。ご自身では、どんなところが他とは違うとお考えですか。
- 広江:
外面だけではなく、内面もそろってこその美しさだと考えています。たとえば、3カ月に一度変わる店内でのアート展示は12年前から継続しています。芸術大学の先生や、アートに関するお仕事をされている方が来店してくださり、そこからコミュニケーションが生まれて展示につながることもあるんです。
空間で言えば、今は店舗のなかにキングコングの西野亮廣さん原作の『えんとつ町のプペル』をテーマにした美容室をつくっています。この部屋での売上の一部は西野さんと一緒にフィリピンの子どもたちや施設に寄付する活動に使っています。髪の毛を切ることによって継続的にこのような活動に携わることができる仕組みをつくりたかったんです。
- FG:
プロジェクトについてどのようなお話を?
- 澤村:
今回NORAさんとお話をすることになったのですが、ご相談をさせていただいた初回にお客様が期待するNORAの世界観さえ守られれば、あとは何をやってもOKですと仰っていただいたのは驚きました。
- 広江:
うちにNGはないですから(笑)。僕たち自身も、普段から美容室の固定概念に囚われずにいたいと思っています。
- 澤村:
お話をする中で、データサイエンスに携わるものとして、やれることがたくさんあると思っています。“かわいい”や“かっこいい”を言語化するだけじゃなくて、たとえば、美容室は病院の代わりにもなれるんじゃないかと考えています。誰もが定期的に訪れて数時間滞在する場所が他にあまりないので、ここで取れるデータはすごく貴重なはず。しかも、病院のデータは年配の方が中心なので、美容室を訪れる若い方々のデータは貴重なんです。これからのライフスタイルをつくっていく若い人たちのデータから、未来を想像していくことはものすごく面白いと思うんです。
カルチャーを紐解くことで、見えてくる未来に向けて。

- FG:
では、若い方々のデータや気持ちをベースにしたプロジェクトを進めていくのですか?
- 広江:
僕自身もZ世代の人たちと仕事をするなかで、彼らがシンプルにかっこいいかどうかを基準に生きていることを素敵だと感じています。たとえば、SDGsに関してもそうなのかなと。意識はしていなくても、スケボーや自転車で移動したり、古着をリメイクして着たり、かっこいいからやっていることが勝手にSDGsに繋がっているんです。大企業がセミナーなどで語っているようなビジョンよりもよっぽどリアルですよね。
- 澤村:
FUTURE GATEWAYが目指している世界観とも重なっていると思います。イノベーションを新しくつくるのではなく、そこにあるけれど見逃されているものを発掘することこそ目指すところ。そこにテクノロジーの要素を入れることで、認知されていなかったライフスタイルを普遍化していきたいんです。それが次のスタンダードになって、そこからまた新しいライフスタイルが見つかるといった具合に繰り返して時代がつくられていくと考えています。
- 広江:
以前NORAで、ずっと韓国風のヘアスタイルを提供している美容師がいました。でも当時は売れる兆しが全然見えなかったんです。相談された僕は「もうそのスタイルを変えたほうがいい」とアドバイスしました。でもその数日後に、韓国系YouTuberの方が来店されて、そこから爆発的に売れるようになったんです。「広江さん、謝ってください」と言われてしまいましたが(笑)。それは自分のなかには存在していなかった“韓国風”というカルチャーが若い人たちのなかに無意識に存在していて、それが共通認識だったわけです。
- 澤村:
データって誰かがすでに実践したものを測っているだけなので、過去のものなんですよね。そこからトレンドを見たり、横並びで他と比べることはデータの得意分野ですが、未来を想像して先取っていくのは、やっぱり人間の方が得意です。役割分担をしっかりすることが重要ですよね。
- 広江:
そういう気づきがたくさんあります。彼らを見ていると、人間っぽくて素敵だなと思うんです。
- FG:
これからお二人が協働していくなかで、どのようなライフスタイルを実装していきたいですか?
- 澤村:
これまで経験や勘によっていた部分が大きい分野の定量化に挑みたいです。データの見える化によって、マッチングやコミュニケーションを円滑にしたり、美容室に髪を切ること以外の新しい体験を持ち込みたいと考えています。テクノロジーの導入で美容師さんの専門性をサポートしつつ、お客様がもっと心地よい時間を過ごせるようにしたいです。
また、長期的には先ほどお話した通り、美容室は体調管理の場にもなるのではないかと考えています。定期的に来る場所なので、来店時にデータを取得して、食生活や運動を通じた提案もできるかもしれません。美容と健康が繋がっているということの認知が直感的に広まる世界を目指したいと思います。
- 広江:
私も、今までずっと考え続けてきた“かわいい”や“かっこいい”という感覚を、もっと追求していきたいと思っています。脳科学者の方が「美の進化を遂げているのは人間と孔雀だけ」と仰っているのを聞いたことがあります。テクノロジーを使いながら、人間の本質的な欲求である「美」を外と中からサポートできるような場所になれると信じています。
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