



あるべきダイバーシティの実現に向けて、結婚式・結婚指輪の価値を考える ジュエリーデザイナー杉原賢
ジュエリーデザイナー杉原賢
KDDI総合研究所が2021年に立ち上げた「FUTURE GATEWAY」。KDDI research atelierがこれまで培ってきた技術を生かしながら、新しいライフスタイルを実践する人々とともに、これからのスタンダードを作っていくための共創イニシアチブです。この連載では、そんな「FUTURE GATEWAY」に関わる人々の価値観に迫り、一緒に未来を考えていきたいと思います。
今回登場するのは、ジュエリーデザイナーでふたり指輪『CONNECT(コネクト)』を立ち上げたSWITCH DE SWITCH代表の杉原賢さん。現在は東京を拠点に活動するデザインスタジオCIVILTOKYOに所属し、マルチに活躍をされています。
FUTURE GATEWAYでは「Project W」という結婚式の多様性を考えるプロジェクトを立ち上げた杉原さんの、これまでとこれからについてお話を伺いました。
結婚指輪という枠にとらわれない指輪

- FG:
はじめに、ふたり指輪「コネクト(CONNECT)」の紹介をお願いします。
- 杉原:
ふたり指輪『CONNECT(コネクト)』はとてもシンプルなペアリングです。特徴的なのは、一人が2本の指輪をつけるようにできていること。トータルで4つの指輪をセットでお渡しします。きっかけは自分の結婚指輪をつくろうとしたことでした。ジュエリー職人の父と、お世話になったジュエリーデザイナーの先輩のどちらかに制作を依頼したかったのですが選べず、それなら半円を二人につくってもらって一つに繋げようと考えたんです。それが『CONNECT』のアイデアに繋がりました。自分が大切に思う二つのものが一つに繋がることは、指輪の本質でもあると思います。
- FG:
杉原さんがジュエリーデザイナーになった経緯を教えていただけますか。
- 杉原:
両親がジュエリー職人でして。僕は韓国で生まれ、0歳の頃にジュエリー産業が盛んな山梨へ引越しました。なので、幼い頃から身近にジュエリーが存在していたんです。そして、韓国に戻って高校を卒業した後、日本のジュエリーデザインの専門学校へ行き、本格的に勉強を始めました。ただ当時はこの仕事でご飯を食べていくイメージがあまり湧いておらず、卒業後の進路に迷っていました。そんな時に同世代がスマホアプリをつくって様々な人を喜ばせている記事を読んだんです。僕はジュエリーで、ファッションに興味のある特定の人しか喜ばせることができないのではないかとコンプレックスを感じました。そこからジュエリーで世の中に価値を提供する方法を考え、結婚指輪に辿り着いたんです。結婚指輪であれば社会的に意味のあるものをつくれると思い、まずは日本でオーダーメイドの結婚指輪ブランドに勤めることになりました。
- FG:
そこからブランドを立ち上げるに至ったきっかけは?
- 杉原:
ある日、お店に事実婚のご夫婦が来店し、指輪以外のアイテムをオーダーされたんです。左手の薬指に指輪をつけていると、まわりからの「結婚したんだね」という祝福の言葉に疲れてしまうからと。そのとき、誰も傷つけないと思っていた結婚指輪が持つ負の部分をはじめて実感しました。それから約一年後、自分自身も結婚をすることになったんです。でも当時は相手側のご両親が結婚にすこし難色を示していて。結婚指輪の準備もしたのですが、左手の薬指につけるのはやめようという話になってしまいました。こうした思いが重なり、結婚指輪で悩んでしまう人がいるなら、結婚指輪という枠におさまらない“ふたり指輪”というコンセプトで指輪をつくりたいと思って、独立して『CONNECT』を立ち上げました。
多様な結婚式のあり方に、もっと肯定感を

株式会社SWITCH DE SWITCH代表。ジュエリーデザイナー/ふたり指輪『CONNECT』ブランドディレクター。"見えないを価値にする"をテーマにプロダクトデザインやブランディングを手掛ける。受賞歴にグッドデザイン賞、JJA Jewelry Design AWARD 新人大賞、World Jewelry Design Award 入賞など。
- FG:
現在ジュエリーづくりにおいて、意識していることはありますか?
- 杉原:
衣食住という観点から、ジュエリーは人々に必要のないものだと自覚しています。そのため、合理的に機能するジュエリーをつくりたいという想いが根幹にあるんです。『CONNECT』では「なぜパートナーと指輪をつけるのか?」について徹底的に思考を深め言語化していますが、流行っているから身につけるのではなく、なぜ身につける必要があるのかを考える機会を提供していきたいんです。
- FG:
結婚について、思うことはありますか?
- 杉原:
結婚とはそもそも、パートナーシップの更新ですよね。関係性をもっと良くすることが目的であるはずなのに、結婚式はライフイベントの一貫として花火のように一瞬で終わってしまうのはどうなのかなと思っています。また、ブライダル業界の仕組みにも疑問を持っています。たとえば、結婚式をするときは一般的に式場から探しますよね。でも実際は、誓いの言葉やまわりに祝ってもらうことが結婚式の本質だと思うんです。そのために場所が必要だから、式場を探すという流れが本来あるべきかと。その体系がずっと変わらずあることには、違和感を感じています。
- FG:
たしかに、本質的ではないですよね。
- 杉原:
こうした考えから『CONNECT』では、指輪だけで儀式が成立するのではないか、という仮説を立てました。そして、4つの指輪を置く位置を工夫することで、指輪の交換が必ず起こるような導線をデザインしたんです。『CONNECT』が一番ミニマムな儀式として、一つの結婚式の形になれるんじゃないかと。僕としては一般的な結婚式をしないという選択肢にももっと肯定感を与えていきたいと思います。
結婚式・結婚指輪を通して、本当の多様性を実現していく

- FG:
今回「FUTURE GATEWAY」に参画した理由を教えてください。
- 杉原:
FUTURE GATEWAYの事務局メンバーの加藤翼くんから話を聞いて、おもしろそうだなと思ったんです。僕は社会の違和感と向き合いながら「目に見えないものごとを価値化」していきたいと考えています。最近ではダイバーシティという言葉が使われるようになり、LGBTQの方のトイレや制服、結婚しない人たちのための指輪など新しい枠組みがたくさん生まれていますよね。でも、それをどう使うかは、個人が自由に決めることだと思うんです。こちらが勝手にカテゴライズしてしまったら、それは特別という名の差別なのではないかと。『CONNECT』でも、匿名性の高いオンラインでの販売オペレーションにはとても気を配っています。僕たちはお客様の事情を知る必要がないし、指輪をどの指につけるかも自由なはずですから。
- FG:
「FUTURE GATEWAY」では、どんなプロジェクトに関わっているのですか?
- 杉原:
自分が違和感を感じていた「結婚式の多様性」を考えるプロジェクトを始めました。これからワークショップを開いて、結婚式以外の形の何かをやった方々のお話を聞いていこうと考えている段階です。僕自身はハワイで結婚式を挙げたんですけど、主な目的は家族との旅行で、結婚式自体は10分くらいで済ませてしまいました。個人的には、挙式よりも夕飯時に妻への手紙を読んだ時間のほうがよっぽど結婚式だったと感じています。僕自身10年後にも同じように結婚式のつもりで妻へ手紙を読みたいと思っていますが、FUTURE GATEWAYでも結婚式を「定期的に来る日」だと捉えることで、二人の人生を丸ごと結婚式にしようというアイデアを考えています。
- FG:
最後に、杉原さんはこれからどんな未来を作っていきたいですか?
- 杉原:
僕たちは、多様性にあえてフォーカスしないようにしたいと思っています。最近はマイノリティの声がマスに届くようになり、みんなが ”インクルーシブ” や ”ダイバーシティ” を学んでいる段階だと思うんです。みんなが違うことを共通で認識しようという時代ですよね。でも、これからはいい意味で「そんなのどうでもいい」と思える時代が来るべきだと思います。社会的にマイノリティと呼ばれていようとも、パートナーと過ごしたいという気持ちは誰しもが持っているはずなんです。なので僕たちはフラットに無形の価値を提供していくだけ。本当の多様性は、そこまで行ってはじめて実現されるものだと考えています。そのために、色んなところでバイアスがかからない仕組みを作っていきたいですね。
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