「3D FOOD PRINTER」から考える2030年の新たな食のデザイン その2
KDDI総合研究所が推進するライフスタイルの共創イニシアチブ「FUTURE GATEWAY」では、未来のライフスタイルを先どりした「先進生活者(t'runner)」たちと共に、社会課題解消に繋がる新たなライフスタイルの一般化を目指す取り組みを行っています。
SDGsが世の関心を集める中、その取り組みの一つとして、私たちは「食」の社会課題に取り組むプロジェクトを進めています。私たちの生活に身近な「食」の課題として、
① 農家の規格外野菜のフードロスの解消
② 地方の介護施設の栄養士不足や要介護者向けレシピの不足
の2つに着目し、まだあまり普及していない「3D FOOD PRINTER」を活用することで、これらの課題の解決を目指しています。
2022年10月の第1回ワークショップでは、『「3D FOOD PRINTER」から考える2030年の新たな食のデザイン』と題して、食と健康の領域に関わる方々と共に2030年に一般化するライフスタイルを考察しました。
第2回となる今回のワークショップは、3D FOOD PRINTERを食の領域で応用することで、新たな食体験を実現することができるのか、2名のt'runnerと様々な分野で飲食に携わっている6名の食のプロを加えた多様な参加者で議論を繰り広げました。
*ワークショップの開催に当たっては、新型コロナウィルスの感染症対策を実施しています。
ワークショップ概要
- 8名の参加者(t'runner:2名、食のプロ:6名)が3D FOOD PRINTERで作成したスイートポテトを実際に試食し、以下の議論を行いました。
- 1. 3D FOOD PRINTER製の食品への期待
どのような分野に応用できるか、どのような社会課題を解決できるかなどの意見を出し合う。 - 2. 3D FOOD PRINTER製の食品の課題
作成スピードの遅さや、現場への導入のむずかしさなどの意見が出されました。
関連するプロジェクト
ワークショップの詳細レポート
ワークショップは、株式会社NODの協力で作成した3D FOOD PRINTER製のスイートポテトを試食することからスタート。3D FOOD PRINTERによる食品作成に対する NOD社の探求の成果もあり、このスイートポテトは大変美味しくいただくことができました。作成工程では、3D FOOD PRINTERでペースト状のさつまいものフードインク*を細かく射出しながら積層していくため、通常のものに比べてよりふわっとした食感を楽しむことができました。
*フードインクは、食品をペースト状にしたもの。3D FOOD PRINTERから射出・成形して食品を作り出します。
3D FOOD PRINTER製の食品への期待:
3D FOOD PRINTER製のスイートポテトを食べてみた後に、参加者で議論を開始。出てきた意見には以下のようなものがありました。
- ・作成方法によって柔らかい食感が生み出されることを活かし、医療や介護の分野に応用ができるかもしれない
- ・大量生産ではなくパーソナライズされたオンリーワンの食品の作成に向いていそう
- ・スイーツづくりの下準備の工程で活用することができないか
- ・和菓子の分野など職人さんが減ってきている領域で技術承継に使えるかもしれない
- ・食べられるおもちゃを作るなど食育の領域で展開したい
- ・規格外野菜を使ってフードロスの解消に貢献できるかもしれない
- ・大学など気軽に触れられる場所に3D FOOD PRINTERを設置して試させて欲しい
3D FOOD PRINTER製の食品の課題:
ワークショップ全体を通じて、3D FOOD PRINTERに期待が多く寄せられた一方で、課題も沢山あることが分かりました。
- ・3D FOOD PRINTERで「なければいけない」理由がまだ弱いと思われる
- ・機材のコストが高く、また食品の作成に掛かる時間も長いため、すぐの現場導入は難しい
- ・機械の取り扱いには知識が必要で誰でも気軽に取り扱える状態にはなっていない
- ・どうしても食感が似通ってしまうので造形だけでなく加工調理を検討したい
- ・大量生産には向いていないので量販用のラインナップでの採用には向かない
上記には3D FOOD PRINTER自体の課題(例:食品の作成に時間がかかり大量生産に向かない)もあるため、今後、ユーザーに提供する価値をストーリーとして描き、その価値を共有・実現できる3D FOOD PRINTERメーカーとパートナーシップを組んだ取り組みなどが必要と考えられます。
今後のプロジェクトの展望
介護施設などでの各人にカスタマイズした食事の提供を目指す場合、今まで評価した3D FOOD PRINTERでは満足できないことが明確となりました。そこで、複数ノズルを切り替えることができる最新の3D FOOD PRINTERの評価や、共に取り組みを進めていただける共創パートナーの探索を進める予定です。
ワークショップ参加メンバー
溝端 友輔 / 株式会社NOD 代表
中央工学校インテリアデザイン学科出身。商業施設の制作会社を経て、建築ディレクターとして独立。 2019年NODを起業。空間の拡張をテーマに、建築や不動産などの領域から、様々な職業や領域のパートナーと共にプロジェクトを手掛ける。
澤村 俊剛 / 株式会社METRIKA COO
自動車や消費財を中心に様々な企業の新規事業開発をサポート。デジタル文脈での人事コンサルティングも行う。現在は創業したデータサイエンスベンチャーの海外進出のため、家族とシンガポールに赴任中。