「3D FOOD PRINTER」から考える2030年の新たな食のデザイン
SDGsが世の関心を集める中、私たちは「食」の社会課題に取り組むプロジェクトを進めています。私たちの生活に身近な「食」の課題として、
① 農家の規格外野菜のフードロス解消
② 地方の介護施設の栄養士不足や要介護者向けレシピ不足
の2つに着目し、まだあまり普及していない「3D FOOD PRINTER」を活用することで、これらの課題の解決を目指します。
今回、食と健康の領域に関わる方々と共にワークショップを開催し、2030年に一般化するライフスタイルを考察しました。
* 開催に当たっては、新型コロナウィルスの感染症対策を実施しています。
ワークショップ概要
食の社会課題の解決とともに、新しい食の在り方をデザインできないか。課題解決へのアプローチとして3D FOOD PRINTERに着目し、実際に実機に触れながら、3D FOOD PRINTERの利用や普及に関する課題の抽出や、新たな応用先の検討を行いました。
2. 3D FOOD PRINTERの活用の課題を抽出し、課題の解決方法のヒントを出し合う。(例:機器の簡便さ・フードインク*の開発)
* フードインクは、食品をペースト状にしたもの。3D FOOD PRINTERから射出・成形して食品を作り出します。
関連するプロジェクト
ワークショップの詳細レポート
意見交換(1)
3D FOOD PRINTERの活用シーン(3D FOOD PRINTERでやってみたいこと)について様々なアイデアが出されました。
エンタメ的な要素:
・お菓子の家や食べられる花束
・お皿ごと食べられる料理
・弥生時代や平安時代などの食を再現して歴史を学ぶ
データ活用:
・家庭や地域の味をアーカイブで残す
・レシピに著作権を付与して、レシピをダウンロードできないか
・個人の嗜好や健康状態にあった食の提供(パーソナライズ)
・AIシェフ
その他:
・平面的な食材の立体化(海苔)
意見交換(2)
続いて、テーマ『「3D FOOD PRINTER」から考える2030年の新たな食のデザイン』の実現に向けての課題や、自分ならどう取り組むかについて、意見交換しました。
課題:
・3D FOOD PRINTERの認知をつくる現場が必要。
・介護食へ適用するのであれば、要介護者一人一人の栄養状態にあったカスタマイズが必要。(パーソナライズ化)
・フードインクに液体を固めるゲル化剤を加えて食品の噛み応えを調整するには、フードインクの更なる進化が必要。
・3D FOOD PRINTER用に規格外野菜を粉末化するにはコスト面を考慮する必要がある。(対象の素材を限定するなど)
自分ならどう取り組むか:
・差別化を図る
① オーダーメイドなどで価値を創出。3,000円のランチを2万円にするなど。
例:プロジェクションマッピング、美容との掛け合わせ
② 3D FOOD PRINTERのマシンの強みを活かし、ガンダムのような形状にして子どもを楽しませる。
③ 新しい噛み応えをデザインする。
その他:
・3D FOOD PRINTERは食品の成形だけでなく、成形した食品に加熱などの手を加えて調理することを前提にしてもよい。
参加者からは次のような意見がでました。
・シェフがフードインクも作れると良い。フードインクなら長持ちし、旬が短い食材も長く使える。
・現状はありものの再現に留まり、面白くない。物体としての価値や空間の中でどう見えるかを追求することが大事。
・3D FOOD PRINTERでは、食材を積み重ねることができるのでビジュアル的に新しい選択肢が生まれる。モノの流通も変えられる。都心でしか食べられなかったものが地方でも楽しめる。
・ビヨンドミート*の「植物から製造した肉に似せた食品(食肉3.0)」は食感もよく、肉汁もある。3D FOOD PRINTERで「ニンジン2.0」を考案したい。
・マンモスの肉や恐竜の卵など絶滅した動物の料理や、絶滅危惧種で禁止されている動物の味を再現するなど、面白い食材をつくりたい。
・食べる人の感性に響くか。
・3D FOOD PRINTERでしか食べられない食の再発明が必要。
・フードインクへのゲル化剤の添加も課題。次回の検証では、ゲル化の専門家にも参加頂きたい。
*ビヨンドミート 米国のスタートアップ企業。植物肉製造。
今後のプロジェクトの展望
今回は3D FOOD PRINTERの活用方法や普及方法のアイデア出しに絞ったワークショップでした。
3D FOOD PRINTERの実機を初めて目にする方が多く、そこからインスパイアされた活用方法が数多く出されましたが、機器自体の制約として成形までに時間がかかることや、フードインクの進化も必要となるといった課題も見えてきました。これら機器の改善やインクの進化を加速させるために、3D FOOD PRINTERならではの新たな食をデザインし、食を通した新しい体験価値をどのように提供できるか検討していきます。3D FOOD PRINTERの普及を目指すことで、フードロスといった社会課題の解決に寄与したいと考えています。
ワークショップ参加メンバー
澤村俊剛 / 株式会社METRIKA,Inc. 取締役 COO
2021年に誰もがデータを使いこなせる社会作りを目指し、株式会社METRIKAを創業。
市橋正太郎 / Address Hopper Inc.代表
2019年にAddress Hopper Inc.を創業。移動型ライフスタイル「アドレスホッピング」を提唱し、約4年間自らも実践。結婚をきっかけに「消費型無拠点生活」から「循環型多拠点生活」への移行を模索中。
溝端友輔 / 株式会社NOD CEO
2019年に株式会社NODを創業。遊休不動産のマッチングプラットフォーム「RELABEL」や日本橋のOMO型商業施設「GROWND」などを手がける。
田﨑理紗 / プランナー・デザイナー
法人営業から、独学で Illustrator, Photoshop, premier pro を学び、いくつになっても新しいことに取り組める「チャーミングなおばあちゃん」になることを目標に、現在はフリーで企画とデザインを担当。