3D FOOD PRINTERで「夜食」をアップデート 「ZOU-NO-HANA FUTURESCAPE PROJECT 2022」イベントレポート
横浜港発祥の地にある「象の鼻パーク」と、パーク内のアートスペースを兼ね備えた無料休憩所の「象の鼻テラス」で2022年12月9日から11日までの3日間、アートの創造性を用いて公共空間の新しい使い方を提案する「ZOU-NO-HANA FUTURESCAPE PROJECT 2022」が開催されました。
このイベントは2019年にスタートした社会実験プロジェクト。「環境」「災害」「食」「健康」「教育」「花と緑」という6つの分野にフォーカスし、アーティスト・市民・企業などと連携して毎年開催されてきました。
本年度のテーマは、コロナ禍を経て大きく変化した「夜」の楽しみ方を考える「ネクストノーマル・ナイトライフ」。クリエイティブ・ライト・ヨコハマ実行委員会が主催する、街と光のアートイルミネーション「ヨルノヨ」とも連動し、アートを通じて、創造的な「夜」の楽しみ方が提案されました。
3D FOOD PRINTERを活用した「夜食」の可能性を探る
「Z FOOD PROJECT」のプロジェクトメンバー。左から、KDDI総合研究所の小原朋広、吉原貴仁、森口泰行、プロジェクトリーダーでありt'runnerの溝端友輔
FUTURE GATEWAYは、大学・企業参加プログラムの一つとしてイベントに参加。テクノロジーを活用して新たな時代のナイトライフを提案するため、FUTURE GATEWAYのプロジェクトの一つである「Z FOOD PROJECT」が出展しました。会場は2009年にオープンした「象の鼻テラス」です。
「Z FOOD PROJECT」は、「食」に関する社会課題を解決するためのプロジェクト。3D FOOD PRINTERを活用することで、規格外の野菜などを含む原材料を保存の効く形でインク化し、フードロスの削減を実現するとともに、見た目にも美味しい料理を今までにない調理方法でつくり出すことを目指しています。
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これまで専門家とともに3D FOOD PRINTERの活用方法を検討してきましたが、「Z FOOD PROJECT」が提案する未来の食のライフスタイル変革につながるテクノロジーを、はじめて一般公開する運びとなりました。
今回のイベントでは、「ナイトライフ」というテーマにあわせて、夜の楽しみの一つである「夜食」に着目。3Dプリンターの技術に詳しい外部パートナー企業の「NOD」とともに、今回のイベントのための実験的なメニューとして、新感覚のスイートポテトを開発し、お披露目しました。
3D FOOD PRINTERの仕組みとは?
国内では3D FOOD PRINTERの認知度はまだまだ低く、一般の家庭に普及しているものではありませんが、プリンターの仕組みはわかりやすくシンプルです。
まず、インク(今回で言えばお菓子の材料となる食材)を専用の容器に入れてプリンターにセットし、上から圧力をかけることでインクを線状に押し出します。下の土台を操作することで、出てきたインクを三次元の形状へとかたどっていくのです。
あらかじめ設計図をもとに抽出したい形状のデータをインプットしておくため、画面上のボタン操作のみで三次元のお菓子を簡単につくることができます。もちろん3Dオブジェクトに関する基本知識こそ必要ですが、業界的には一般的な技術を使っているだけで、今回のために独自の手法を使っているわけではありません。一つのお菓子が完成するまでにかかる時間は5分から10分程度でした。
今回はインクとしてスイートポテトを用いましたが、基本的に粘性のある食材であればインクとして使用することが可能です。ただし、固まりやすさなどによって、向き不向きはあります。例えば、チョコレートを使おうとすれば、プリント直後に冷やす工程が必要になるなど、テクニックを必要とする場合もあります。
「FUTURESCAPE PROJECT 2022」への参加を通じて
写真はサンプル。会場では実際にその場で制作したものとあわせて展示
本イベントへの出展に際して、3D FOOD PRINTERに詳しいパティシエの方にも監修していただき、すべて同じ原材料をベースに、形状(とげとげしさや丸み)や口当たりを工夫し、「さわやか」「まろやか」「スパイシー」「スイート」という4種類の和菓子をつくり分けました。来場者からは、「おいしそう!」「食べてみたい」などのうれしい反応が。
また、「好きなキャラクターの形のお菓子を作ってみたい」「友達の顔に似せたものをつくってプレゼントしたい」などの声も寄せられ、視覚的に楽しめるお菓子の可能性も見出すことができました。たとえば「子どもの描いた絵を記念にお菓子にする」などということもできるかもしれません。
さらに、今回のメニュー開発を経て、3D FOOD PRINTERでつくりだした食材を使って(パスタとして茹でる、出力したお菓子の穴の中にジュレなどを入れるなどの)二次加工をすることで、食味をアップデートするヒントも得ることができました。
「夜食」がコミュニケーションの媒介となる
イベントは「ナイトライフ」というテーマにあわせて陽が沈み始める16時30分に開始。あたりが暗くなり始め、「象の鼻パーク」各所に設置されたアート作品がライトアップされると、会場となる「象の鼻テラス」もネオンやミラーボールによって夜の賑やかな雰囲気に包まれました。
普段から多くの人が行き交う「象の鼻テラス」のエントランスに「Z FOOD PROJECT」のブースを構えたこともあり、イベント開始直後から連日多くの方がブースに立ち寄り、3D FOOD PRINTERに興味を示してくれました。結果的には200名を超える来場者と接することができました。
イベント全体では人と人、人とまち、遠く離れた場所と場所など、コロナで途絶えてしまった「つながり」や「交流」を意識した作品が多く見られましたが、3D FOOD PRINTERでつくるエンターテインメント性の高い「夜食」にも、人々のコミュニケーションの媒介となる可能性があることを認識できました。
「Z FOOD PROJECT」としては、将来的に廃棄されるはずだった食材を組み合わせながら、個人の栄養状態にあわせた食べ物を、3D FOOD PRINTERが自動でつくってくれる未来を目指しています。さらには、今回のイベントを通じて、「エンターテインメント性」という「Z FOOD PROJECT」ならではの特性を再確認でき、プロジェクトの目指す方向を広げることのできるイベント出展となりました。