テクノロジーでサステナビリティに貢献するために 「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2022」イベント出展レポート
「アイデアと触れ合う、渋谷の6日間。」をテーマに、カンファレンスや体験プログラムを開催した渋谷アイデア会議「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2022(以下、SIW2022)」。渋谷の街で産官学民がプログラムを共につくり、議論に参加することで、多様なアイデアが出会い、つながり、形になることを目指し、265名のスピーカーの登壇と、127にわたるプログラムが実施されました。そんなSIW2022の初日、FUTURE GATEWAYは2つの展示と1つのトークセッションに参加しました。
今回、FUTURE GATEWAYが出展コンセプトとして選んだのは「サステナビリティ」。資源の枯渇を防ぎ、環境の再生を促し、持続可能性の高い社会をつくろうとする考え方は、今やどんなアイデアを実現するにも欠かせない視点として浸透しつつあります。
そんなコンセプトに合わせて、展示ブースには「monolog」と「GOMISUTEBA」という2つのプロジェクトを出展。「monolog」は「適切にモノを手放しやすい社会」を目指すプロジェクトで、「GOMISUTEBA」は「ごみを捨てるという概念を捨てる」ことを目指すプロジェクトです。
意味を拾い上げ、機能を手放す生活を目指す「monolog」
事故で破損してしまった車のエンブレム
「monolog」は「所有からの解放」をコンセプトに掲げています。ミニマルな暮らしやシェアリングエコノミーに注目の集まる昨今ですが、雑貨や服、本など「なくても暮らせるけれど、所有したくなってしまうもの」はまだたくさんあるはず。人々がモノを手放す際に対面する「思い出も失ってしまうのではないか」という不可逆的な恐怖を取り除くための実験と検証を行っています。
今回、SIW2022の会場に展示したのは「事故で破損してしまった車のエンブレム」と、「息子が使っていた木でできたおもちゃ」。他人から見れば「ガラクタ」のようなモノも、当人にとっては手放せないモノであることを表現しています。
「monolog」プロジェクトのリーダーでありt'runnerの安藤智博
人々がモノを手放せない理由を考える中で、浮かび上がってきたのは「思い出」というキーワードでした。プロジェクトリーダーでt'runnerの安藤智博は、「モノを手放すということは、そのモノに付随する思い出を手放すことになるんじゃないか。その恐怖を断ち切るためにはどうすればいいかというところに着眼しました」と語ります。また、機能的な価値がないモノをいかにして手放せるようにするかがこのプロジェクトのキーだと言います。
過去には、思い出を手放さずにモノを手放すための実験として、モノに対しての想いを語ってもらうインタビュー動画の撮影を実施したことも。「このプロジェクトを通して、人々がモノの在り方と向き合うきっかけがつくれたら嬉しい」と安藤。今後はさらに手法を増やし、思い出と切り分けたモノの手放し方のデザインをしていく予定です。
捨てられるものに新たな価値を与える「GOMISUTEBA」
もう一つのプロジェクトである「GOMISUTEBA」は、これまで不用品とされていたものを生かし、新たな価値を生む取り組み。「ごみを捨てるという概念を捨てる」というコンセプトを掲げ、使われずに眠っている素材を新たな家具やインテリアなどに生まれ変わらせてきました。
今回の展示では、スピーカーや積み木を活用してつくられた2つのランプや、使われなくなった家具からできた椅子などを並べました。街中から集めてきた素材同士をつなぐのは、3Dプリンタでつくられたジョイントモジュール。素材を集めるだけでは使える道具へのアップデートはできません。その課題をクリアするために3Dスキャニングで必要なパーツを決め、3Dプリンタによって部品をつくり上げています。
プロジェクトメンバーの渡邉慎也(KDDI総合研究所)は「使われなくなった子どものおもちゃなど、思い出のある『ガラクタ』の活用方法として、『GOMISUTEBA』のプロジェクトが生かせるのではないか」と語ります。
KDDI総合研究所の渡邉慎也
プロジェクトを開始して約1年が経った現在は、使える不用品を集める工程、新たな家具やインテリアに生まれ変わらせる工程、使い手に届ける工程のそれぞれにおいて、ユーザーがより参加しやすい方法を模索している最中だと言います。
「手放す」と「捨てない」が合体した先にある、サステナブルなライフスタイルが実現される日はもう近くまで来ているのかもしれません。
食から始める楽しい気候アクション「クライマタリアン」
サステナビリティに関わるテーマとして欠かせないのが「食」の分野です。FUTURE GATEWAYでは、食材の温室効果ガス排出量の可視化に取り組み、気候変動時代に生きるわたしたちにとっての「豊かな食」のあり方を提案する「クライマタリアン」というプロジェクトを推進しています。
このプロジェクトを牽引するt'runnerのMayuとFUTURE GATEWAYの運営メンバーである丸山 咲、FUTURE GATEWAYの立ち上げに携わった木村寛明(KDDI総合研究所)の3名が「FUTURE GATEWAY x Climatarian」というテーマでトークセッションに参加しました。
左から、木村寛明(KDDI総合研究所)、t'runnerのMayu(Quisine代表)、丸山咲(株式会社qutori・コミュニティマネージャー)
「クライマタリアン」とは、地球環境への配慮から、食由来の温室効果ガスの排出量が少なくなる食生活を選択する人のこと。2015年のニューヨーク・タイムズで初めて登場した言葉だといいます。「気候アクションは我慢が多くて、つらい。もっと楽しく豊かな気持ちを生むようなアクションがしたい」。そう考えたMayuは食に目をつけ、日本でもクライマタリアンの人口を増やそうと活動してきました。
「『クライマタリアン』というキーワードを聞いて、ネーミングって大切だと思いました」と話す丸山。たしかに共通認識を持ったり、興味を持つきっかけとして大切な合言葉になりそうです。Mayuは「活動開始から半年くらいは『クライマタリアン』という言葉に出合っていなかったので説明が難しかったけれど、言葉に出合ってから前よりも興味を持ってもらえるようになった」と語ります。
「してはいけない」という明確な決まりがないクライマタリアンの取り組みでは、各人が好きなように、できる範囲で食生活の改善に取り組みます。例えば、プロジェクトに関わりながらクライマタリアンとしての生活にもチャレンジしている丸山が取り組んでいるのは、月曜日だけ肉を食べるのを控える「ミートフリーマンデー」。「強い思いはなかったけれど、とりあえず1ヶ月やってみようという気持ちでやってみたら、同じことをやっている友達を見つけて、ゆるくミートフリーマンデーを続けられている」と実体験を語ります。他にも家でご飯を食べる時だけ菜食にしたり、肉を食べるときは豚肉を選ぶなど、柔軟にできる範囲から取り組むことができるのがクライマタリアンの魅力です。
プラントベースの食材や、廃棄予定だった食品の切れ端を活用した当日のケータリング(食事提供:nonpi)
とはいえ、まだまだ日本では認識が広まっていないクライマタリアンの食生活。「今後は食品にCO2排出量が記載されたり、地球環境に配慮したレシピの集まるサイトが増えたりすることで、このライフスタイルも定着しやすくなっていくのではないか」とMayuは言います。
最後に
「サステナビリティ」というキーワードから、全く異なるアプローチを用いた3つのプロジェクトが参加したSIW2022のイベント。社会課題の解決は難しさもありながら、あらためて新しいアイデアがたくさん生まれてくる可能性を感じられる1日となりました。今後もこれらのプロジェクトが発展し、サステナビリティに寄与できることを目指して、FUTURE GATEWAYの挑戦は続きます。