



自分も地球も気持ち良くいるために。クライマタリアンという選択肢を広める Quisine代表 Mayu
Quisine代表 Mayu
KDDI総合研究所が2021年に立ち上げた「FUTURE GATEWAY」。KDDI research atelierがこれまで培ってきた技術を生かしながら、新しいライフスタイルを実践する人々とともに、これからのスタンダードを作っていくための共創イニシアチブです。この連載では、そんな「FUTURE GATEWAY」に関わる人々の価値観に迫り、一緒に未来を考えていきたいと思います。
今回登場していただくのは、気候変動と食の関係の未来をつくるQuisine代表のMayuさん。食を取り巻く活動による環境への影響や地球にやさしい食の選択について伝えるウェブサイト「Climatarian.jp」を運営しながら、未来につながる食のスタイルを持ち豊かに生きる人(=クライマタリアン)を増やすことをミッションとして活動しています。そんなMayuさんの描く未来についてお話を伺いました。
気候変動問題に食からアプローチしていく

- FG:
現在、どのような活動を行っているか教えてください。
- Mayu:
クライマタリアンという、気候変動に配慮した食生活の普及をミッションに活動しています。クライマタリアンは、気候を意味する「クライメート(Climate)」と、主義を意味する「タリアン(tarian)」を組み合わせた単語で、2015年NY Timesで初めて登場した言葉です。自分ができる範囲で地球に配慮した食生活をおくることを推奨しているので、他の食スタイルに比べてハードルが低いんです。たとえば、元ビートルズのポールマッカートニーが提唱している「ミートフリーマンデー(Meet Free Monday)」は、月曜日だけプラントベースの食事に切り替えるスタイルです。他にも、外食は自由にしつつ家での食事ではプラントベースにするなど、自分の好きな頻度と深さで取り組むことができます。気候変動は世界的に大きな問題ですが、日本では自分ごと化が進んでいないとの国際的な調査の結果もあります。一般の方々が身近にアクションできるきっかけとして、クライマタリアンの考え方を広めていきたいと思っています。
- FG:
Mayuさんが、この活動を始めたきっかけはどのようなものでしたか?
- Mayu:
大きなきっかけとなったのは、アル・ゴアの『不都合な真実 2』という映画を観たことでした。もともと留学の経験があり、気候変動に対する海外と日本の温度差は感じていたんです。データを参照しても「気候変動は人間活動に由来するものではない」と考えている人の割合が、調査した29カ国内でなんと日本が一番高く、日本の現状を変えていく必要があると感じました。他にも、アル・ゴア主催の「Climate Reality Project」に東京で参加したことも大きなきっかけでした。NPO、企業、金融機関などの多様な約800人の気候変動に興味を持つ人が集まり、セッションが行われました。そこで近しい関心を持つ仲間に出会えたことで、活動が始まっていきました。
- FG:
そこから現在の活動に至るのですね。
- Mayu:
仲間と議論を重ねるなかで「気候変動問題を身近に捉えられない」ことが、やはり一番大きな課題だと感じていました。そこにどうアプローチするかを考えていたとき、Netflixで『Cowspiracy: サステイナビリティ(持続可能性)の秘密』というドキュメンタリー番組を観たんです。食が気候変動問題に与える影響の大きさに衝撃を受け、これをテーマにしていこうと決めました。特にクライマタリアンという言葉に出会ってからは、普及していきたいライフスタイルがここに集約されていると感じ、このコンセプトを広げていくために「Climatarian.jp」というウェブサイトを立ち上げました。
手軽なのに大きなインパクトを持つ「クライマタリアン」な食生活

- FG:
「気候変動問題を身近に捉えられない」ことは特に日本で顕著だとお話しされていましたが、その理由はなぜなのでしょう?
- Mayu:
まず環境問題に関する教育が、世界的に見ても遅れている点はあると思います。ある調査では、世界の66%の人々が、環境問題に対するアクションによって自分の生活が豊かになると感じている一方、60%の日本人が、環境アクションによって自分の生活の質が脅かされうると考えていると報告されています。環境アクションには自分の生活の質のダウングレードが必ずともなうという誤った認識は、意識が遅れてしまっている原因ですよね。なので、いかにアクションすることを楽しくしていけるかが重要だと考えています。
- FG:
現状日本では、クライマタリアンはどのような広がりを見せているのでしょうか?
- Mayu:
まだほとんど誰もご存じないかと思います(笑)。でも気候変動を理由にしたベジタリアンの方は一定数いる気がしていて、主に20代の方が多い印象です。クライマタリアンはベジタリアンよりハードルが低いので、最初の入り口としてぜひおすすめしたいです。
- FG:
食生活を変えていくことは、気候変動問題にどれくらいの影響を与えられるのでしょうか?
- Mayu:
現在、世界の温室効果ガス排出量のうち20.4%が食の生産由来であり、また全体の14.5%が畜産関連となっています。これは全世界の運輸部門によって排出されるものよりも多い数字なんです。飛行機の使用を控えようとか、自動車を変えようという話と、同等もしくはそれ以上のインパクトがあることは、ぜひ知っていただきたいです。
- FG:
実際にクライマタリアンの考え方を生活に取り入れる場合、なにか満たすべき条件はありますか?
- Mayu:
頻度も深さも自分次第ですが、3つのポイントがあります。一つ目に、それぞれの食材のカーボンフットプリントを知ること。ハードルは少し高いのですが、知ることでどんどん自分が何を選ぶべきなのかがわかってきます。二つ目に、牛由来の食材の消費をできれば減らすこと。お肉はもちろん、乳製品なども含めて、効果が特に大きい施策です。そして最後に、旬のものや近くで生産されたものを食べること。つまり、ハウス栽培でない季節のお野菜や国内産の食材を食べることですね。
人も地球も心地良い、そんな社会を目指して。

Mayu:気候変動と食の関係の未来をつくるQuisine代表。アル・ゴアの映画「不都合な真実2」を観て、気候変動が今後最も多くの人の悲しみを生む課題だと直感し、気候変動へのアクションを行うことを決意。誰にとっても身近で自身も大好きな食から、楽しくておいしく、インパクトの大きい気候変動アプローチを模索している。
- FG:
どんな活動を通して、クライマタリアンを普及させていきたいですか?
- Mayu:
現在は主に「Climatarian.jp」というウェブサイトを通じて、気候変動と食の関係や、どのようにクライマタリアン的な生活を送ればいいのかについての記事を発信しています。長期的には、食材やサービスの面からもアプローチができたらと思っています。たとえば、クライマタリアンメニューを外出先でも選べるような環境づくりができないかと考えたり。これは私たちだけではなく、パートナーさんとともに検討している段階です。
- FG:
FUTURE GATEWAYではどのようなプロジェクトを担当されていますか?
- Mayu:
FUFUTURE GATEWAYでも、クライマタリアンを普及するためのプロジェクトを行っています。現在は人々のニーズとペインがどこにあるのかを探っている段階ですね。面接でt'runnerの方々とお話しした際に、未来の姿を一緒に描いていけたら楽しいだろうなと思って参加させていただきました。気候変動という真面目になりがちなテーマではあるので、楽しさがあったり、自然にやりたくなるような方法や仕組み作りに取り組んでいます。
- FG:
最後に、これからどのような未来を想像していますか?
- Mayu:
自分も地球も気持ち良くいられる社会、世界を作っていきたいです。利益を得るためにどこかで誰かを傷つけてしまうのは、本質的には気持ちよいことではないですよね。なので、できるだけ自分の行動を自分が納得できるものにしていけるといいなと思うんです。また、環境と社会についてある程度知識を手にすると、現在の自分の生活に対して疑問や罪悪感を感じてしまうこともあると思います。たとえば、プラスチック包装ってこんなに必要なんだっけとか。そんな疑問や罪悪感がある状態を抜け出し、自分のアクションに自信が持てる、少しずつでも心地良い着地点をみんなが見つけられるような社会にしたいです。クライマタリアンという選択肢を持つことで、そこに近づいていけると考えています。
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