服のリメイクから考える「アップサイクルの未来」
KDDI research atelierでは、「アップサイクル」と呼ばれる新たなライフスタイルの応用研究を進めています。今回のワークショップのテーマは「服のリメイクから考える『アップサイクルの未来』」です。
※このワークショップは新型コロナウィルスへの十分な感染対策に加えて、参加者が密にならないように配慮して実施されました。
ワークショップ概要
古着を素材(繊維)まで戻さず、古着を裁断・解体して再構築するいわゆる「リメイク」でアップサイクルを行う検討を開始し、どのような形態・状態に仕上がっていればアップサイクル品として受け入れられるかを検証しました。
参加者が持ち寄った古着を裁断・解体して服をリメイク・再構築しました。
2. アップサイクルの一般化のための検討
服のリメイクの体験を通して、アパレルのプロではない一般の生活者が、どのような仕組み(接合モジュールなど)があればスムーズに工程を実施できるのかについて検討しました。併せて、システム的にサポートを要する部分についても議論しました。
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ワークショップの詳細レポート
企画の主旨
本プロジェクトは、「アップサイクルの一般化による持続可能な社会の実現」を目指すGOMISUTEBAプロジェクトにおける、アパレル領域の試みです。アパレル産業は、地球環境への多大な影響から、大量生産・大量廃棄の見直しが求められています。
これまでの試みでは、古着を原材料である糸まで戻し、そこから染色して3D編み機を用いたアップサイクルを検討していました。外部の有識者(ファッション・繊維系商社様、衣料製造機器メーカー様、服飾・ファッション専門学校様など)との議論の結果、2021年時点の技術では、廃棄された多種多様な古着を製造に足る品質の糸へ戻して新たな衣服を生産することは、非常にハードルが高いことが分かりました。そのため、糸に戻すのではなく、古着をバラバラに裁断してパーツとして利用し、接合モジュールによって再構築するという将来像へピボットすることにしました。
今回のワークショップでは、参加者の持ち寄った古着を、腕や胴などのパーツに分解し、別の古着のパーツと接続する工程を最初から最後まで体験しました。その過程で、アパレルのプロではない一般の生活者自身が、プロの手を借りず衣服の再構築をしようとする際の課題について議論しました。
服のリメイクを実際に行う
参加者が持ち寄った古着を裁断・解体して再構築を行いました。
持ち寄った古着たち
裁断・解体する様子
再構築する様子
再構築された古着たち
アップサイクルの一般化のための検討
再構築の過程で、①古着をパーツ毎に切り分け、②データ化し、③組み合わせ(マッチング)、④どれだけアパレルのゴミを減らせたのか効果を測定するという工程が必要そうなことが見えてきました。そして、この工程を進め、サイクルを循環させるためには、①の前の入口のハードルを下げることと、④のあとの自分が作った洋服に愛着がわくことも重要です。
また、システムで補助できる工程は、②データ化、③組み合わせ(マッチング)、④効果測定です。入口のハードル、①切り分けに関しては、人が介入した方がよいかもしれません。
今回のワークショップを通じて、アップサイクルの取り組みとして「服のリメイク」は、ハードルが低く、参加しやすいことが分かりました。「日常で使いやすいか?」という議論では、アパレルは奇抜なものが生まれやすく、時と場所を選ぶかもしれないという意見が出ました。また、その形や複数の素材を使用していることからメンテナンスを心配する意見も出ました。
今後のプロジェクトの展望
今回のワークショップは「普段使いは難しそう」「メンテナンスはどうするのか?」といった具体的な課題がありながら、コミュニケーション活性化のツールや、アップサイクル啓蒙の手段として楽しく学べるツールになりえることが分かりました。
「リメイク」でアップサイクルを行う場合、どのような形態・状態に仕上がっていればアップサイクル品として受け入れられるのか、そしてどうすれば一般化できるのか。これからも検証は続きます。
ワークショップ参加メンバー
加藤翼 / 株式会社qutori CEO、株式会社ロフトワークコミュニティデザイナー
「共創」をテーマに他分野のコミュニティを横断する事業を多数手がけ、100BANCH、SHIBUYA QWSのコミュニティマネージャーを務める。
澤村俊剛 / 株式会社METRIKA,Inc. 取締役 COO
2021年に誰もがデータを使いこなせる社会作りを目指し、株式会社METRIKAを創業。
市橋正太郎 / Address Hopper Inc.代表
2019年Address Hopper Inc.を創業。移動型ライフスタイル「アドレスホッピング」を提唱し、約4年間自らも実践。結婚をきっかけに「消費型無拠点生活」から「循環型多拠点生活」への移行を模索中。
市橋加奈美 / 循環を考える料理家
夫婦でアドレスホッピングしながら各地の生産者を訪ねるフィールドワークの実施など、料理家と移動生活の両立を実現。
溝端友輔 / 株式会社NOD CEO
2019年に株式会社NODを創業。遊休不動産のマッチングプラットフォーム「RELABEL」や日本橋のOMO型商業施設「GROWND」などを手がける。
田﨑理紗 / プランナー・デザイナー
法人営業から、独学で Illustrator, Photoshop, premier pro を学び、いくつになっても新しいことに取り組める「チャーミングなおばあちゃん」になることを目標に、現在はフリーで企画とデザインを担当。
渡邉慎也 / KDDI総合研究所 コアリサーチャー
ライフスタイルリサーチに従事。コンシューマ向けサービスの調査~戦略策定~企画・運用まで広く浅く経験し、現在アップサイクルプロジェクトGOMISUTEBA担当。
中尾優真 / KDDI総合研究所 コアリサーチャー
IoT関連研究に従事。土砂災害危険地域におけるセンサネットワークの構築や、収集データの分析などを経験。現在アップサイクルプロジェクトGOMISTEBA担当。
矢崎智基 / KDDI総合研究所 グループリーダー
先進生活者との共創コミュニティや共創プロジェクトの企画立案・推進の業務を担当。博士(工学)。HCD-Net認定人間中心設計専門家。HCD専門資格認定センター・センター長。