アパレルとヘアメイクの未来を考える
昨今、ファッションを取り巻く環境はめまぐるしく変化を遂げています。聞こえてくるのは、こんな声です。大量の廃棄を生み出すのではなく、よりサスティナブルであるためにはー? 店舗販売の先行きが不透明な中、リアルとバーチャルをより柔軟に結ぶにはー?
幅広いファッションの領域の中からアパレルとヘアメイクの2つを選び、「アパレルとヘアメイクの未来」をテーマとして、KDDI research atelierでワークショップを開催しました。
ワークショップでは、ファッションの未来へ向けたアイデアの創出はもちろん、ファッションに関する哲学や知識の交換が行われました。
ワークショップ概要
関連するプロジェクト
GOMISUTEBA
不要になったもの、使わなくなったものにデザインやアイデアといった新たな付加価値を持たせることで、そのものの価値を高めて生まれ変わらせる「アップサイクル」活動を一般化し、ごみを捨てるという概念を捨てる、ということを目指しています。
※本プロジェクトは2023年11月に終了しました。
ワークショップの詳細レポート
アパレルやヘアメイクに携わる先進的な生活者を中心に、KDDI research atelierに集った参加者は13人ほど。オリジナルの香水を販売する方、ネクタイのアップサイクル(※)を手掛ける方、綿花やテキスタイルを生産している方など。創造する立場、届ける立場、身にまとう立場、スタイリングする立場と、ファッションとのそれぞれ異なる接点を持った人たちが集まりました。
(※)通常なら捨てられるモノに新たな付加価値を加え、新しく別の製品にアップデートさせること。
ディスカッション1:今を見直そう
ファッションの「未来」への構築に先立ち、前半はファッションの「現在」を確認することにしました。私たちは、いつ、どこから、どのようにして、そしてなぜ「装」と関わっているのかー。ファシリテーターからのヒントは、「それぞれのサイクルに分けて、関わりを見える化」すること。サイクルは次の7つに分けられます。
1:調達 2:生産 3:販売 4:探索 5:購入 6:着用 7:廃棄
「調達」「生産」「販売」にかけては、先進的な生活者の経験がモノを言います。
「調達」では、「アップサイクル」の他に、「日暮里の‥」「浅草橋の‥」と具体的な調達先を回答する声も。
「生産」では、「委託」と「手作り」が拮抗し、渋谷のコワーキングもトレンド入り。「カウンターやプリンティングスペース完備だし、珍しい生地もあって」との情報に参加者は興味津々です。
「販売」では、アイデア整理のホワイトボードに「popup」「Instagram」「BASE」「ヤフオク」などのワードが付箋でびっしり。オンライン比重は高まっているものの、最後は「消費者の生の声を聞けるオフラインは代えがたい」との総意で締められました。
「探索」「購入」「着用」「廃棄」は、より議論を深めるためにKDDIの研究者も当事者として参加しました。
「探索」では、「店頭」「雑誌」「口コミ」「街ブラ」など、ホワイトボードに並んだワードは意外にも堅調なアナログによる情報収集です。その後は、「YouTubeでの紹介動画」「店員さんのSNS投稿」というデジタルによる手法が追随。
「購入」では、格安ブランド名がホワイトボードを占有し、アリババの海外向けサイト「Aliexpress」の愛用者が続出。そうこうしているうちに「古着」や「メルカリ」などサステナブルな購入が上位に。「着なくなった服がたまったら集合して、友だち同士で定例フリマ会をします!」という参加者も。サステナブルな購入に対しては、「小さくても循環していて、しかも究極に理に適っている!」と、多くの参加者が賛同しました。
「着用」では、「仕事用」「お出かけ用」「冠婚葬祭用」とのワードが並びます。その中に「上半身のみちゃんとしたものを着る」との付箋が。リモートワークで上下別のちぐはぐな格好が度々あった経験からの発想です。
「廃棄」では、「捨てる」という人は少数で、「メルカリ」「姉にあげる」「染め直し」と、手段は違ってもリユースが大人気。「自社回収」「返却BOX」を利用して違う商品へリサイクルするという意見もちらほら。
ディスカッション2:ファッションの未来をつくろう
ファッションの「現在」を踏まえて、アイディエーションへと進みます。未来へ向けた風呂敷はいくらでも広げられるけれど、特に先進的な生活者が熱量をもって取り組めるよう設計することも、今回のイベントの狙いです。そこで、生活者にとってより身近なテーマをアイディエーションの基軸に据えることに。テーマは、「ファッションの世界に、もっと多様性に富んだコミュニティを、これまでにないタッチングポイントを!」
ファシリテーターから、このテーマをより具体化した二つの指令が出されました。
①髪を切ってもらうだけ、じゃない。コミュニティ空間に美容室をアップデートせよ!
②アパレルの循環をおしゃれに。自然なタッチングポイントを生み出せ!
参加者はそれぞれの興味・関心に応じて、①「未来の美容室」チーム ②「未来のアパレル」チームの二手に分かれて検討することに。
ここで、ファシリテーターから次の前提条件が出されました。
「もしあなたが、その場を運営する、もしくは利用する立場だったとしたら?」
このことを契機に、瞬く間に多くのアイデアが蓄積されます。各チームでの検討も順調に進み、やや時間が足りないくらいの頃合いで全体発表の時間へ。
「未来の美容室」チーム
美容室は、美容師さんとお客さんの会話だけがある場所で、コミュニティ空間にはほど遠い場所。しかし、「行きつけの美容室は仕事や居住地に近いという人が多い。それならば、似た趣向や感性の持ち主と巡り合う恰好の場になるポテンシャルは十分ある」と分析。ここから、顧客同士を結ぶサービスが提案されました。その他のアイデアとして、「切った髪で遺伝子検査・健康診断」「染色に合うメイクアドバイス」「髪の記念写真撮影」などが紹介されて、参加者を楽しませました。
「未来のアパレル」チーム
廃棄されるはずの衣類を再び商品として循環させるためには、消費者の参加が鍵になるとの気付きから、「アップサイクラー」なる職種を提案。「パタンナーでもスタイリストでも生産者でもないけど、廃棄物を素材として持ってくる人にはなれる。アップサイクラーがリメイクしてシェアリングして使用する。もし誰かがそれを商品として購入したら、アップサイクラーはその売上も享受できる」このアイデアには、参加者から自然と拍手が起きました。その他には、傷んだ布で織り上げる伝統技法「さきおり」を利用したアップサイクルの仕組みづくりや、「勝負下着のシェアリングサービス」というユニークなアイデアが出されました。
今後のプロジェクトの展望
今回のワークショップは、幅広いファッションの中のアパレルとヘアメイクの2つを対象に行われました。作り手の生活者との議論を通して、コミュニティサービスやヘルスケアという別領域との組合せや、アップサイクルやシェアリングといった調達・提供方法の切り口など、様々なアイデアが生まれました。
誰もが当事者であるファッションは検討領域の絞り込みが難しいですが、昨今、ファッションを考える上で外せないサスティナブルの文脈が強いアップサイクルについて、検討を深めていきたいと考えています。
参加した先進的な生活者
加藤翼 / 株式会社qutori CEO、株式会社ロフトワークコミュニティデザイナー
「共創」をテーマに他分野のコミュニティを横断する事業を多数手がけ、100BANCH, SHIBUYA QWSのコミュニティマネージャーを務める。早稲田大学で哲学を専攻、ボストン大学への留学後に外資系コンサル企業に勤務。デザインスクールを経て株式会社qutoriを創業。
澤村俊剛 / 株式会社METRIKA,Inc. 取締役 COO
同志社大学でサスティナブル経済学を学んだのち、2013年パーソルキャリア株式会社 (旧インテリジェンス) 入社。戦略人事部 新卒採用部において、西日本採用拠点の立ち上げを行う。その後、企業OBの豊富な知見を社会に還元する社内ベンチャー「i-common」に異動し、西日本拠点を立ち上げる。事業企画として東京に赴任後、新規事業開発担当としてテック・クリエイター領域へのサービス拡大を行う。2021年に誰もがデータを使いこなせる社会作りを目指し、株式会社METRIKAを創業。