「“誇れる地元”を全てのひとに。」をヴィジョンに建築・まちづくりを行う 守屋真一
株式会社micro development代表取締役社長 守屋真一
「FUTURE GATEWAY」は、先進的なライフスタイルを実践する人々を中心に、多様なパートナーとこれからのスタンダードをつくる共創イニシアチブです。当シリーズでは、FUTURE GATEWAYに関わる人々の価値観に迫り、一緒に未来を考えていきたいと思います。
今回登場するのは、「“誇れる地元”を全てのひとに。」をヴィジョンに建築・まちづくりを通して地方の新しい価値創造に取り組んでいる守屋真一。それぞれの地域にあったまちづくりを行うために、企画・設計・運営の全てに携わる「マイクロディベロッパー」として活動しています。彼の具体的な活動内容、その活動に至った経緯や想い、今後の目標などについて話を聞きました。
東伊豆と渋谷で地域をまたいだ事業を展開
- FG:
守屋さんの先進的な活動や事業について教えてください。
- 守屋:
僕たちの会社は、地域をまたいだ事業を展開しています。僕自身は東京の渋谷を拠点に仕事をしていますが、本社は静岡県の東伊豆町にあります。
最初は東伊豆町だけで活動していましたが、東伊豆町だけでは解決できない課題があることに気づきました。そこで、意識的に東伊豆町を本社とし、渋谷にも拠点を設けることで、地域を横断した取り組みを始めました。テクノロジーや働き方が変わる中で、地域の差が少なくなってきていると感じています。東伊豆町をもっといい場所にして、多くの人に知ってもらうことが、新しい価値を生むと思っています。東伊豆町では、新しいプロジェクトを応援し、サポートする「プロジェクトコーディネートカンパニー」として活動しています。主に建築やまちづくりを手掛けていて、空き家の改修や地域活用などに取り組んでいます。
最近では、伊豆に移住してきた若い女性がネイルサロンを開くのを手伝いました。店の名前・コンセプトデザイン・内装・SNSでの情報発信まで全面的にサポートして、事業を軌道に乗せることができました。また、東伊豆町の玄関口である伊豆稲取駅近くに新しい観光案内拠点「まちのレセプション」を設けて、地域の活性化にも貢献しています。将来的には、小規模開発事業者(マイクロディベロッパー)として、地域の価値を高めることを目指しています。東京では大規模なプロジェクトで地域を発展させていますが、ローカルレベルでも建物やテナントの規模から始めることで、地域の価値を高められると信じています。この「マイクロディベロップメント(小規模開発)」という考え方で、全国にソリューションを展開していきたいです。
守屋真一(もりや・しんいち)/1990年生まれ、神奈川県秦野市出身。「“誇れる地元”を全てのひとに。」をヴィジョンに建築・まちづくりにおける企画・設計・運営に携わる「マイクロディベロッパー」として、複数組織を横断しながら活動。建築設計をベーススキルに、空間プロデュースや新規事業開発、コンテンツ開発を通じて、都市とローカルを横断した社会課題解決を目指す。芝浦工業大学建築学科、同大学院修了後、株式会社日本設計、VUILD株式会社を経て、現在は株式会社micro development代表取締役社長。ADDReC株式会社、一般社団法人超帰省協会、NPO法人ローカルデザインネットワーク、株式会社オープン・エーを兼務するマルチワーカー。
地方のまちづくりを手掛ける「マイクロディベロッパー」
- FG:
マイクロディベロッパーを目指す理由と、最初のプロジェクト地として東伊豆町を選んだ理由を教えてください。
- 守屋:
その2つの話はつながっています。僕が芝浦工業大学の大学院生だったころ、学生団体で空き家を改修するプロジェクトを始めたのが最初のきっかけでした。東伊豆町を選んだ理由は、大学の同期生が東伊豆町でまちづくりのインターンをしていて、農業支援や観光振興に関わる活動に参加していたからです。毎年その活動に参加しているうちに、彼は地元の役場の人たちとも仲良くなりました。その後、彼が大学院生になって「何かプロジェクトを始めたい」と役場の人に相談したところ、空き家の再利用を提案されて、物件を提供してもらったんです。僕はその同期生から一緒に空き家を改修しようと誘われ、東伊豆町に行くことになりました。それまで東伊豆町には行ったことがなく、伊豆半島についてもあまり知らなかったのですが、そこで2軒の空き家を改修しました。しかし、改修したものの、それを使う人がいなければ意味がないという大きな課題に直面しました。最初に改修した物件は、結局運営が続かずに再び空き家となってしまいました。
2軒目は、地元の人たちと協力して月に1回ワークショップを開き、地元の人が必要としている建物をつくり上げることができました。この経験から、建物を改修しても、実際にそれを必要とする人がいなければ機能しないことと、地元に必要なものを提供することが重要だと学びました。地元のニーズを的確に把握し、どのように町を発展させるかを考えると、その役割を担えるのはディベロッパーだと気づきました。民間事業者の立場で柔軟なまちづくりをしたいと考え、マイクロディベロッパーを目指すことにしました。
- FG:
その取り組みを始めたのはいつになりますか?
- 守屋:
最初に学生団体で始めたのは2014年なので、ちょうど10年前になります。2014年から2年間、学生団体で空き家の改修に携わりました。その後、僕と他のメンバーは卒業し、それぞれ就職をしたのですが、1人のメンバーが地域おこし協力隊で東伊豆町に移住をして、空き家を改修した物件の運営を続けることとなりました。僕と他のメンバーは、新入社員の時に東伊豆町の支援のためのNPO団体をつくり、本業と複業の2軸で働いていました。2022年にメンバーそれぞれが社会人としての経験をある程度積んだので、もう1回再集結して4人で東伊豆町を拠点に株式会社をつくりました。それが今の「micro development」という会社になります。
画像:本人提供
大切にしている言葉は「コーディネート」
- FG:
その活動に至った想いや、活動の中で大切にしていることがあれば教えてください。
- 守屋:
僕が今、特に大切にしていることは、「コーディネート」という言葉です。この言葉は、自分たちがやりたいことだけに固執するのではなく、また、地元の人から求められたものをただつくるのでもなく、全体を見渡しながら、みんなの意見を取り入れ、必要な方向へ導くという行動を表しています。このことが、僕たちの取り組みで最も重要だと思っています。「コーディネート」と似ている言葉として、ワークショップの「ファシリテーション」や「プロデュース」がありますが、全員の意見をまとめつつ、方向性を定めることの重要性を感じているので、「コーディネート」という言葉を選びました。日本語でいうと、「中立力」のような感じですかね。中立的でありながら、ある方向性を持つという点が重要だと考えています。地元の人も、外から来た人も、このコーディネートの中立性を基に活動をしていくと社会がうまく推進していく気がしています。
僕たち4人でどんなビジネスを始めようか考えていたとき、クリエイティブな才能を持った友人に参加してもらって、僕たちの会社のコンセプトに「プロジェクトコーディネートカンパニー」という名前をつけてもらいました。僕たちがうまく言葉にできなかったものが、明確に言語化されたと思います。
- FG:
東伊豆の他に、渋谷にも拠点を置いた理由は何ですか?
- 守屋:
僕たちは、いろいろな情報や新しい動き、さまざまな人たちが集まる所に居場所を持ちたいと思っていたので、渋谷にある「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」という起業家や投資家だけではく、エンジニア、研究者、企業や地方自治体などさまざまなステークホルダーが、世代や立場、領域の垣根を越えて交差する会員制の共創施設を拠点にすることにしました。また、伊豆半島では伊豆急という電車が通っていて、その親会社が渋谷に本社のある東急株式会社なので、渋谷と伊豆はとても相性が良いです。その関係で、東急さんとは一緒に事業を進めたりしています。
- FG:
自治体や企業と連携して事業をされているのですか?
- 守屋:
自治体の案件では、やはり東伊豆町からの依頼が特に多いです。主に取り組んでいるのは、空き家問題への対策ですね。それに加えて、町の将来の方向性についての計画もよく話し合われます。民間企業側から見ると、都市部と地方をつなぐプロジェクトの相談が増えていて、具体的にはワーケーション(仕事をしながら休暇を楽しむこと)の推進などがあります。例えば、渋谷をはじめ東京の人たちを伊豆に呼び込むようなワーケーションプロジェクトの企画に取り組んでいます。
また、別の取り組みとして、大分県中津市で空き家や公共の不動産を視察するツアーも開催しました。このツアーではクリエイターたちを招待し、新しいプロジェクトを立ち上げ、良い拠点づくりを目指しています。
福井県勝山市でも、空き家を再利用するプロジェクトを進めています。これは、地元の建設会社や行政と協力して、空き家の改修や地域の活性化を行う取り組みです。これらのプロジェクトは、僕たちの会社がさまざまな方面に活動を広げていく始まりとなっています。
都市部と地方の垣根を越えて人々の生活圏を広げたい
- FG:
今後の目標や、将来取り組みたいことがあれば教えてください。
- 守屋:
今後の目標は、人々の生活圏を広げたいと考えています。例えば、東京に住んでいる人たちにとって、東京は生活の中心地であり、伊豆半島のような場所は特別な観光地、つまり日常から離れた場所に思えます。しかし、僕は、東伊豆町が距離的に東京からそんなに遠くはないと思っています。東京に住みながら、週末には別の活動を楽しむことができる場所と考えています。例えば、農家さんの手伝いをするなど、新しい体験をすることも可能です。また、逆のパターンとして、地方に住みながら、週に何日かは都市部に出かけるといった生活もありえます。こうした生活が普通になれば、日本の社会構造が変わるかもしれません。僕は、都市部とその他の地域とをつなぐ活動をしていきたいと思っています。
- FG:
課題やその解決のための取り組みがあれば教えてください。
- 守屋:
課題としては、エリアを横断するには時間とお金がかかるため、それが多くの人にとって大きなハードルになっていることです。しかし、将来的には自動運転技術の進展により、例えば、月額2万円でタクシーがいつでも乗り放題となれば、これは自然に解決すると考えています。その一方で、現時点でも、エリアの横断を通じて新たな収入を得る仕組みを作れば、移動のコストを補うことができます。例えば、東京でのスキルを活かして伊豆で週末に塾を開くことなどができれば、その収入で移動費を賄い、地元の人々に貢献する生活が実現可能です。このような取り組みにより、地域間の交流が活性化することを期待しています。
また、新しいビジネスを始める際のハードルを下げるために、新しいお店を出す際に必要なブランディングやデザインを支援するサービスを準備しています。通常、ブランディングには高額な費用がかかることが多く、多くの人が新しいビジネスへの挑戦を躊躇します。しかし、僕たちは生成AIなどを利用して、これらを手頃な価格で提供することにより、新しいビジネスを始めやすくする仕組みをつくっています。このようなサポートがあれば、より多くの人が新しいことに挑戦するきっかけを得られると考えています。
- FG:
FUTURE GATEWAYへの期待について教えてください。
- 守屋:
自動運転のように人の移動を容易にする技術や、新しいプロジェクトを始めやすくするようなAIなど、新しい技術が次々と生まれています。FUTURE GATEWAYと一緒にやることで、そうした最新技術を導入する際のハードルを一緒にクリアしていけるような取り組みができたらいいなと思っています。
また、人と人とが垣根なく交流できるようなコミュニティをつくることは、僕たちにもできることですが、それをもっとドライブさせていくことや、そこでやったことを他のエリアに展開していくところで、FUTURE GATEWAYと連携できれば、僕たちのやりたいことが一気に広がるのではないかと思います。
撮影協力:SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)