「食べる」の裏側にアクセスしやすい社会を創る 菅田悠介
NPO法人MOTTAI代表理事 菅田悠介
KDDI research atelierが2021年に始動した「FUTURE GATEWAY」。これまで培ってきた技術を活用しながら、新たなライフスタイルを実践する人々を中心に、多様なパートナーとこれからのスタンダードをつくる共創イニシアチブです。この連載ではFUTURE GATEWAY に集う先進生活者「t'runner(ランナー)」の方々に価値観や目指す未来を伺います。
今回登場するのは、NPO法人MOTTAI(モッタイ)の代表理事である菅田悠介さん。食料廃棄への問題意識から、狩猟のシェア事業「罠オーナー制度」や鶏の解体ワークショップ、食べ物が報酬となっている「一次産業お手伝いマッチング」、廃棄になりそうな食料を持ち寄った料理会「モッタイNight」など、数々の活動を展開されています。菅田さんに活動に至った経緯や今の想いを語ってもらいました。
食べることの裏側を知ってほしい
- FG:
菅田さんが現在取り組まれている活動について教えてください。
- 菅田:
主にMOTTAIでの活動になります。MOTTAIでは、食べることについて改めてみんなで考える機会をつくりたいと思ってさまざまな食育の活動をしています。その中でも特徴的な活動は狩猟体験です。僕たちは動物が食料になる過程を五感で体験してもらうことを大事にしています。体験ではまず食料(解体の対象)となる「鶏」がどういう生き物かを説明して、その後に解体して、食べる。そして食べた後に、「食べることについての価値観の変化」についてディスカッションします。
他にも、みんなでお金を出し合って罠猟にかかる費用をシェアし、捕れた獲物も山分けする「罠オーナー制度」の運営、さらに廃棄されそうな食べ物を持ち寄ってみんなで料理して食べる料理会「モッタイNight」を開催しています。
- FG:
MOTTAIの主たる取り組みを詳しく教えてください。
- 菅田:
鶏の解体を通して食べることについて考えてもらうワークショップが主たる事業で、食べることについてみんなで考えようという研修も兼ねています。提携している養鶏農家さんから鶏を譲ってもらい、学校や塾、ご家族などを対象に解体の体験を提供しています。また、職場のチームビルディングに繋がるという側面から企業の研修も行っています。取り組みは大学2年のころから続けていて、2020年の大学卒業のタイミングでNPO法人を立ち上げました。しかし、NPO法人を立ち上げたタイミングとコロナが流行った時期が重なってしまいました。僕たちNPO法人では直接農家さんや猟師さんの下で体験する1次体験を大事にしているのですが、コロナ禍では活動ができませんでした。コロナ禍が落ち着いた2022年ごろからは鶏解体の活動を再開し、年間20~30回行うことができています。会の参加者数はだいたい10~20名くらいで、家族連れや料理人などさまざまな方にご参加いただいています。現在メンバーは21名、ボランティアの方やプロボノ*¹の方を含めると30人ほどです。
*1:社会的または公共的な目的のために、自身がもっている職業上の知識やスキルや経験を活用して取り組む社会貢献活動を意味する。
菅田 悠介(すがた・ゆうすけ)/当たり前と思われがちな「食べる」の裏側についてアクセスしやすい社会を創るNPO法人MOTTAI代表理事。罠猟師。元インフラ企業社員。みかん畑に囲まれた120世帯ほどの地域である、小田原市米神にて古民家シェアハウス運営。食料廃棄問題に興味を持ち、NPO法人MOTTAIでは狩猟のシェア事業「罠オーナー制度」や、鶏解体ワークショップ、食べ物が報酬の一次産業お手伝いマッチング、廃棄になりそうな食材を持ち寄った料理会「モッタイNight!!」などを展開。
- FG:
さまざまな取り組みをされていますが、参加者の反応はいかがですか。
- 菅田:
印象的だったのは、「解体の体験を通して手羽先は2つあるのが自然と知って以来奇数個で食べられなくなった」とか、「スーパーのパックに何匹ぐらいの鶏の命が使われているのだろうと想像するようになった」というコメントをされた方々がいらっしゃいました。こういった声を聞くと、僕たちの活動によって食べるということを大切に考える人が増えているのではと感じます。
僕たちは食べることの裏側を知る機会が少ないことに問題意識を感じています。そのため、さまざまな食に関わる体験の機会を提供していますが、その後の判断は皆さんに任せるというスタイルをとっています。個人的には食べ残しが大嫌いなので、みんなにも「全部食べてほしい」もしくは「食べ切れないのであれば僕が食べます」というような思いはあります。しかし、あくまでMOTTAIとしては「食料廃棄は絶対するな」という押し付けはしません。そういった、各々で考える余白は残すように意識しています。
画像:本人提供
ふらっと寄れて楽しく消費できる場に
- FG:
モッタイNightについて教えていただけますか。
- 菅田:
モッタイNightは、僕が食料廃棄に興味を持ち始めた大学1、2年ぐらいに友人の食べ残しがすごく目に付いたことから始まっています。一人暮らしの大学生が親から送られてきた食べ物を持て余して腐らせてしまったりするのも何とかならないかと。そこで、食べ物を持ち寄り、料理が得意な人に調理してもらえば、みんなで消費できて無駄にならず、かつ楽しいイベントになるなと思いました。
MOTTAIの想いに共感してくださる大磯町にあるお寺さんと一緒に、農家さんや学生やお年寄りの方々などに集まっていただき、みんなで料理して食べるということもやっています。また、企業とコラボや共催で「出張版モッタイNight」のような形でやることも多いです。先月はおむすび屋さんのコラボや、能登半島の震災支援を兼ねたイベントを行いました。
最近は、どこからか僕たちの活動をキャッチして「面白い取り組みをしているね」と声を掛けていただきプロジェクトがスタートすることが増えてきました。ちょうど昨日も一緒にモッタイNightをやりたいという子ども食堂の方がいらっしゃいました。
- FG:
モッタイNightは食料廃棄問題の解消が根元にありますが、参加者も同じ想いでしょうか?
- 菅田:
今のモッタイNightはみんなで食料廃棄について考えようとか解決しようというよりは、気軽にふらっと来れることを第一に考えた場所になっています。参加費はなく、寄付をいただくというスタイルです。そのため、参加する側としても金銭面でのハードルは低いと思います。そして、楽しく料理してみんなで食べていたら、たまたま食料廃棄の解消に繋がったと気づいていただくことをゴールにしています。それがきっかけで、「食料廃棄はもったいないと日ごろから何となく意識するようになった」とか、「農家や猟師の方々、一次産業に関わられている方々との交流によって食糧はこうやってできているんだと何となく知れた」とか、「農家にお手伝いに行く機会につながった」とか、そういった2次的、副次的な効果がモッタイNightにはあると思っています。
また、ネットワークもいろいろ広がっていると感じます。例えばプロジェクトを一緒にやろうとか、シェアハウスを一緒に始めましたとか、何かしらみんなが繋がる場にはなっていると思います。
場所によりますが、リピーターの人も多いです。お寺でのモッタイNightは、中学生たちが「面白い、もう100回は参加したい」と言ってくれていて、中には毎回来てくれるすごく良いリピーターもいます。
- FG:
モッタイNightの料理は菅田さんが決めたり食材を準備したりするのですか。
- 菅田:
最初のモッタイNightは、フリースタイルでほんとうに闇鍋みたいなものができてしまいました(笑)。まるでおいしくないものをみんなで無理やり気合で食べるイベントになってしまいました。どうせつくるならおいしいものにするべきだけど、料理が得意な人が毎回いるわけではない。そこで、今はある程度味の担保をするために、カレールーなど味がまとまるものを用意するようにしています。それに合うような食材をみんなに持ってきてもらうスタイルにすることで、参加のハードルも低くなったかなと思います。
画像:本人提供
狩猟のハードルを下げたい
- FG:
猟師活動もされていますが、どのような取り組みをされているんでしょうか
- 菅田:
今イノシシやシカがかなり出る地域に住んでいます。周りのミカン農家さんに被害が出ないよう畑などに罠を置かしてもらうのですが、大きい箱穴(罠)だと一つあたり約10万円も掛かるようなものもあるんです。しかも動物が掛かった時に罠が壊れる可能性があるため、整備や修理の費用が掛かります。罠の見回りや解体の作業にもかなりの労力が要ります。なので、狩猟人口も減ってきていますし高齢化も進んでいます。その問題を解消すべく、もっとカジュアルにハードル低くやろうというのが僕らの活動の目的です。狩猟に掛かるお金をクラウドファンディングのように出し合い、互いにシェアすることで活動に関わりやすくして、捕れたものも配当する、といった仕組みをつくっています。
以前やっていた罠オーナー制度という事業では、お金を出して参加してくださったオーナーは30~40名ぐらいいらっしゃいました。
僕自身は、罠を仕掛けたり、MOTTAIに関わってくれているボランティアの方や協力してくれる猟師の方のお手伝いをしたり、他の狩猟系のNPOの活動に参加したりしています。
たまたま見たブログから活動に
- FG:
今の活動に至った経緯や想い、また活動の中で大切にしていることがあれば教えてください。
- 菅田:
活動のきっかけは、大学受験の時にたまたま見たブログなんです。志望校は、小論文の問題がとても難しいことが有名で、いろいろ価値観を広げないと小論文が書けないと思い、人のブログを読み漁ったり、本を読んでみたり、教養になりそうな番組を観たりしていました。そのような時期に狩猟をやっているある女性のブログに出合いました。そのブログでは狩猟や解体の写真を掲載していたのですが、「動物を解体して食べるなんて」といった意見が何100件も書き込まれていて、かなり炎上していました。それを見た時にすごく違和感を覚えました。僕たちは何らかの形で動物の命に恩恵を受けているはずなのに、食料をつくる人に対して批判するのはどうしてなんだろうと思いました。一方で、その女性がそれでもブログで発信を続けている理由もすごく気になったので、実際にその女性に会いに行き、その方の下で狩猟体験をしたんです。自分で鴨を解体してお肉にして食べるというイベントに参加して、「ああ食べ物ってこうやってできているんだ」というのを実感して、その日から一切食べ残しをしなくなりました。食べ物を捨てるというのは、この鴨の命を無駄にしているのだと捉えるようになりました。それからは食べ残しをしている人を見るとすごく腹が立つようになって、「食べ残しするなよ」とか「日本は1年間に600万トン食べ残しがあって―」とか「バーチャルウォーター*¹が―」とか、いろいろ言うようになりました。でも言ったところで友達には「何言ってるの、この意識高い人は」みたいな目でしか見られませんでした。そのため、どうやったら友達に「自分ごと化」してもらえるのかと思った時に、じゃあ、食べ物がどうやってできているかを自分が発信する人になったらいいんじゃないかと思い、大学2年の時に狩猟免許を取得して解体ワークショップを始めるようになりました。
*2:食料を輸入している国(消費国) において、もしその輸入食料を自国で生産すると仮定したとき、どの程度の水が必要かを推定したもの。
- FG:
ブログを見る前から食関連に関心があったのですか。
- 菅田:
いえ、高校時代などはお恥ずかしながら食べ残しも当たり前にしていましたし、食糧関連の分野にもまったく興味はありませんでした。ただ、お肉は好きでしたし、純粋においしいものを食べること自体はすごく好きでした。給食も大好きで、給食の調理担当の女性と話すのも好きで、また目立つのが好きだったので生徒会の給食専門委員長に立候補して、給食時間をより良く過ごすにはどうしたらいいのかについてディベートのようなこともやっていました。
五感で体験できる教材づくりをめざして
- FG:
今後の目標や取り組んでいきたいことがあれば教えてください。
- 菅田:
今後の目標は大きく2つあります。1つは僕たちの事業について。研修事業はすべて現場で体験することを重視していますが、食事が提供されるまでに至る裏側のたくさんの人々の苦労や歴史を、五感で体験することができる教材を提供できたらいいなと思っています。現場で体験するのと同等の効果を出せるような教材をつくって、いろいろなところで授業をしたり、また、僕たちがいなくてもその教材があればどこでも食べるということについて考えられたりする状態になればいいなと思います。教材は動画とテキストではなくイラスト漫画や絵として伝える方法やコンテンツ案を検討している段階です。もう1つは、今の活動拠点である小田原と東京以外にもっと拠点を増やしたいと思っています。僕たちが運営している小田原の古民家のシェアハウスは一次産業に従事している人たちも住んでいるので、彼らとも繋がりやすく、また、みんなが食べることについて改めて考えやすい場所になっています。このような場所をたくさん増やしたいと思っています。
- FG:
活動をしているなかで感じている課題はありますか。
- 菅田:
今のメンバーは企業などに属しながら活動しているので、ちゃんとMOTTAIだけで各メンバーが生活できるように、経済的に回る仕組みづくりが課題になっています。拠点を増やしてイベントができる場所を増やすことや、また経済的な理由や精神的な理由で鶏解体などに参加できない人もいると思うので、そういう人へのワークショップの提供を事業として回すことなどが課題解決のへの第一歩だと思っています。また、協賛やスポンサーの働きかけもしていきたいです。
- FG:
最後に、FUTURE GATEWAYへの期待や共創してみたいことがあれば教えてください。
- 菅田:
小田原がメインの拠点になっているので、東京での活動に繋げてもらったり、活動場所を提供してもらったり、そういったいろいろな繋がりの提供をFUTURE GATEWAYにはとても期待しています。そしてFUTURE GATEWAYで活動するさまざまな活動家たちのマインドや悩みごとも僕たちと重なるところがあるのではないかと思うので、そういった“同志”たちとの繋がりも期待しています。