安藤智博
私のライフスタイルルール
t'runner 安藤智博
FUTURE GATEWAYに集う「越境走者=t'runner(ランナー)」。当シリーズ[MY RULE]では、t'runnerたちの先進性は日々の暮らしの中でいかに恒常化しているのか?を“ライフスタイルルール”として紹介していきます。
今回は、都市のタブーに切り込むアーバニスト組織「していいシティ」の代表として、都市をテーマにした制作や表現活動をする安藤智博が登場。
FUTURE GATEWAYでは、「所有からの解放」をコンセプトに掲げ、人々がモノを手放す際に直面する不可逆的な恐怖を取り除くことで、適切にモノを手放せる社会を実現するプロジェクト「monolog」などを牽引。そんな安藤のライフスタイルルールとは?
安藤智博(あんどう・ちひろ)/1996年、福島県出身。学部で都市開発を専攻し、卒業後は大学職員や地域シンクタンクにて特別研究員(デザインリサーチ)、東京大学発イノベーション教育プログラムi.school通年生を経て独立。2021年、都市のタブーに切り込むアーバニスト組織“していいシティ”を立ち上げる。
安藤智博のパーソナルインタビュー[MY PERSPECTIVE]はコチラ
t'runner安藤智博のライフスタイルルール
- LIFESTYLE RULE.01
- 一次情報を大切にする
- LIFESTYLE RULE.02
- 「人の見えるモノ」を大切にする
- LIFESTYLE RULE.03
- 創造性を育む空間や経験を大切にする
LIFESTYLE RULE.01
一次情報を大切にする
いろいろな地域に出かけていって、そこの土地の人と話したり、地域のものを食べたり、情報に触れるということをライフスタイルの1つにしています。
大学生のときから「ファームホッピング」といって、いろいろな地域の農業や漁業に触れながら、地域に滞在する経験をしてきました。そこで出会う人々やその土地の土着の文化に触れることが自分の成長のきっかけにもなりました。
その中で印象的だったのは、有明海で海苔漁師のお手伝いをした時に見た光景です。出航前に漁師の皆さんが天気アプリを絶えずチェックしていました。出航できるかできないか、海の上は危険がたくさんあるので、間違った判断で出航すると命取りになります。アプリ上の情報も大切にしつつ、最終的には村落の人たちが丘の上に集まって、「あの風向きはよくない」「あの雲の見え方はすごく波が高くなる」など、昔からの経験則を集合知にしていく。その土地の産業による独自の文化に触れるとき、自分はまだまだ知らない世界があるんだな、と感じます。
今までは地図上における「建物」であったり、どこかを目指すという「移動」の在り方を考えることが私の活動の根幹でしたが、これからはもっと「人」に向かっていく、という働きが増えると思います。「人をめがけていくコミュニケーション」をより円滑にするためのプロダクトをつくっていきたいです。
時間を見つけては第一次産業に触れることを大事にしているという。「なにもファームホッピングという形でなくても、週末に少し土に触れてみるとか、県外に行ってみるだけでも“はじめて”を増やすきっかけになると思います。そういった経験を皆さんにもぜひしてほしいです」(画像:本人提供)
LIFESTYLE RULE.02
「人の見えるモノ」を大切にする
例えば、いま着ているこのエプロンは、親友からもらったモノですし、この手にしているゴザのプロダクトも大切にしている仲間と一緒につくったものだったりします。そういう、誰がつくったのか、関わったのか、という「顔の見えるモノ」を大切にすることを心掛けています。
なぜ、そのモノ自体に価値があるかというと、やはりそこに時間がかけられているからだと思います。購入するという行為以外にも、手づくりしたり、イベントを計画したり、サプライズをしたりとか、相手のためにかけた時間が長ければ長いほどモノには愛着が沸くと思いますし、想いも増していきます。そういうモノを起点としたコミュニケーションを大事にしたいです。
「していいシティ」の連携パートナーである「中田畳店」とコラボ出展した「地べた音楽祭」にて。古畳をアップサイクルしたピクニックシートなどを共同制作し、製品の紹介や販売をした
良くも悪くも自分自身はモノに対して「所有している」という感覚が強くないように思います。例えばこのエプロンなどは何か制作する時に必ず着用するんですけど、所有しているというよりも制作モードの時の「自分の一部」。これがないと自分が欠けてしまうという感覚でモノとは付き合っています。
LIFESTYLE RULE.03
創造性を育む空間や経験を大切にする
いま山梨県河口湖町で、国内外からいろいろなアーティストが来て制作滞在するような場所としてアーティスト・ラン・レジデンスに携わっています(取材時点(2023年11月)の情報)。いわゆるファインアートなどの美術だけではなく、身体表現やメディア表現、DJなどもいたりしていろんな制作活動の集合地となっています。自分自身もそういう場に身を置くことで、今まで知ることのなかった表現方法に出合ったり、世界の捉え方を学んだり、毎日が新しい発見がある。一人で制作していると凝り固まったりしますが、そのような環境で制作することでどんどん洗練されていく感覚になります。そういった創造的な環境に身を置くライフスタイルを大事にしていきたいです。
個人的にもいろいろな人と話したり、協働するのが性格的にも合っているし、好きなので、自分の原動力や創造性に繋がっている気がします。
アーティスト・ラン・レジデンスを運営する活動体「6okken(ロッケン)」。キュレーターやアーティスト、写真家、庭師、編集者など、多様なフィールドで活動するメンバーによって構成されている(画像提供:6okken)
それを「制作」と言うか言わないかだけで、誰しも“衝動”を持っている
今でこそユニット(していいシティ)を結成して活動する中でアーティストを採択する財団と縁があり、支援をしていただくこともありましたが、活動前は「本当にできるのかな」と不安に思っていた時期もありました。でも自分の大切にしてきたことはずっと変わってないと思います。例えば料理をする時間は自分の創造性を高める時間のひとつですし、街を歩くにしても、いつも同じ道を通らずに「今日はこの角曲がってみよう」とか「ここの路地裏行ってみよう」とか、元々自分が大切にしている価値観というのは変わっておらず、新しい発見を通してより多くのいろいろな人を巻き込んだり、巻き込まれたりして、活動が広がった気がします。
偏愛とか衝動とか自分の好きなことって誰しもあると思うんですけど、それを「制作」と言うか言わないかだけの違いであって、自分の好きなことを追求するライフスタイルが大切かなと思います。