2030年の食はどうなっているのか?
2030年の少し先の未来を、ライフスタイルにおける先進的な生活者の方々の視点から逆算し、ライフスタイルの変化の兆しを掴むことを目的にワークショップを開催しています。
「FOOD in 2030」と題した、食のエキスパートたちが2030年の食について意見交換するワークショップを都内で開催しました。
ワークショップ概要
・参加者が2つのグループに分かれてディスカッション
・「自身の問い」を発表
2.「いただきます」のOMO (Online Merges with Offline)のアイデア共有
・消費者と生産者のオンラインとオフラインの繋がりを組み合わせ、食に対する感謝の気持ちを届ける新しいコミュニケーションのアイデアを共有
関連するプロジェクト
いただきます
食事をする時に発する「いただきます」や「ごちそうさま」には、目の前の料理に携わった人たち(料理をした人や、食材の生産者)への感謝の気持ちが込められています。しかし、現状では「いただきます」や「ごちそうさま」をただ言って終わりになっているのではないでしょうか。食の生産者の方へもっと分かりやすいかたちで、感謝の気持ちが伝わる方法はないのか。このプロジェクトでは、この感謝の気持ちで食の生産者と消費者の双方が気持ちよく繋がれる、新しいコミュニケーションの形を探ります。
※本プロジェクトは2023年2月に終了しました。
ワークショップの詳細レポート
ディスカッション1:2030年の理想的な食とは?
テーマは「2030年の食」。ライフスタイルブランドの経営者、都市で農業を営むNPO法人メンバー、薬膳の専門家、築地の業務用魚卸業者、米作りの農業法人創設者の方などが集まり、ワークショップが開催されました。
まずは参加者らが2つのグループに分かれ、自己紹介と理想とする食の未来について議論を行いました。様々な食のバックグラウンドを持つ各参加者の経験や知識から「理想的な食」について多くの意見が飛び交いました。
■グループ1で出された意見
・育児をしていると片付けが楽な食事がいい
・余った野菜を干したり、コンポスト(※)を利用したりする方法はないだろうか
・おふくろの味を共有するために、官民連携でデータベース化できないか
・お米が一生食べ放題になるような生産量を確保したい
・食べなくても死なないようにできないか
・狩猟採集をあえてすることで、食のありがたさを感じる機会をつくれないだろうか。
(※)自宅などで手軽に生ごみや落ち葉などを分解し堆肥化させる仕組み
■グループ2で出された意見
・食の価値を上げるために、食のエンタメ化が起こるのではないか
料理そのものの価値と、料理の簡素化(完全食などの普及)の2極化が進むのではないか
・「食べる」にはいろんな機能が付加できる機能食が登場するのではないか
・どんな未来でも食の安全はもっとも優先されるべき事項ではないか。(流通経路はブラックボックス状態なのでトレーサビリティが必要)
・遠隔農業に取り組むなど、参加性のある食が実現できないか
・「食は家族みんなで」ができたら良い
・自分の家で肉や魚も作れたら良い
・食糧廃棄物を減らす
これらの意見をもとに、自身の中になかったテーマ、「ため」になったアイデアを参考に「自身の問い」をまとめ、発表し合いました。
■会場で出た「自身の問い」の例
・おふくろの味を共有知化できないか?
・食をもっと楽しいモノに出来ないか?
・食べることにもっと関心を高められないか?
・いつでも、どこでも、誰とでも食事することはできないか?
・好きなモノを食べて健康でいられないか?
・食事行為を好きな頻度でできるようにならないか?
・食べる楽しみがなくなった2030年はどうなっているだろう?
ディスカッション2:「いただきます」のOMOアイデアの共有
2030年を見据えた時に、生産者と消費者の間で新しいコミュニケーションが生まれるのではないか?と考え、「いただきます」のOMOというアイデアが生まれました。
「いただきます」のOMOとは、日本特有の文化である「いただきます」の感謝の気持ちを生産者に確実に届けるためのアイデアです。食体験において消費者と生産者をデジタルで繋げる新しいコミュニケーションをデザインし、オンラインとオフラインを併合して食のエコシステムを作りあげたいと考えました。
この、「いただきます」のOMOについて、会場の皆さんと一緒にディスカッションを行いました。
■ディスカッションで出された意見
・生産者も流通業者も一般消費者からの評価を聞きたいと思っている。一般消費者がどのように料理をして食しているのか、加工して食しているのか、を知ることで生産にフィードバックすることができる。または生産のブランディングに生かすことができると考える。
・農業は、一般消費者に直接販売するケースが増えてきている。そのため自身の農産物のブランディング強化など意識の高い農家の方もいる。
・近年増えている兼業農家は、土日のみしか収穫・出荷できないため、正規の流通ルートに乗せづらく、農協が運営する道の駅や直売所など販売先が限られるケースがある。そのためスマホなどを使用した新しい販売方法の確立として直接販売のニーズが増えていくのではないか。
・産直サイトを上手に活用できる農家は限られるのではないか。どんな農家の方も利用しやすい、仕組みづくりが必要なのではないか。
・生産者の顔が見える商品はそれだけで製品価値が高いのではないか。それを実現できるSNSのようなアプリケーションの需要があると思う。
・今後、兼業農家の定義が変わる。親から譲り受ける農地がある場合、今後農地の転用の制約が緩和される。これにより、農家の1人当たりの農地が大きくなる可能性があると言われている。今後法律が変わり、1つの農地を複数の人間で管理する市民農園からでも出荷が可能になる。そうなると兼業農家は減少し、本業農家と市民農園(副業農家)が増えるのではないかと考える。副業農家ではSNSを活用したブランディングも盛んになるかもしれない。
・漁業では養殖業のブランディングに注力している団体が多い。旬の季節以外にも出荷できる品種をつくるなどで成功している団体もある。海外でブランドが認められると大きな利益を生む可能性がある。特に中国は高額で買い取ってくれる場合がある。
・まだ、食のプラットフォームと言えるアプリケーションは存在していない。今後一次産業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)は進むだろう。
今後のプロジェクトの展望
今回のワークショップで一次産業のDXを進めるためには、誰の立場に立って考えるか、という視点が必要なことが分かりました。
法整備、技術の進化が進み、今後、生産者の視点、流通業者の視点、一般消費者の視点、それぞれの立場で一次産業のDXが大きく進展すると思われます。
今後増えていくと考えられる副業農家を対象に、「いただきます」のOMOが受け入れられるのか、t’runnerとともに検証していきます。生産者と消費者の新たなコミュニケーションの形をデザインする取り組みを進めてまいります。
参加した先進的な生活者
齊藤朋子 / ライフスタイルブランド 株式会社 トゥイニームーン 代表取締役
「都市生活者と農業」をベースに活動する特定非営利活動法人Urban Farmers Club(会員600人超)で約120人のメンバーが、恵比寿のビルの屋上で約60種類超のハーブを育てる「ハーブ部」部長。ハーブ部では、ハーブを植えて育てるだけではなく、収穫したハーブを生活に取り込むワークショップなどを多数主催。
新井ゆかり / Team薬膳代表、国際中医薬膳師、国際中医師
北京中医薬大学日本校 薬膳専科・中医中薬専攻科卒業。日本中医学院(旧 北京 中医薬大学日本校)薬膳専科で講師を務める。企業とのコラボによるメニュー開発、薬膳カフェの監修、親子料理教室など中医学・薬膳関連で幅広い経験あり。著書に「キレイ&元気のための漢方&薬膳レシピ」
諏訪孝弥 / 希縁インターナショナル
築地の業務用魚卸業 希縁インターナショナルにて、魚の卸売業に従事。安定的な仕入チャンネルを確保し、総合食品スーパー、 飲食店、ホテルなどへの魚介類の流通が専門。 新鮮でおいしい鮮魚をお届け出来る仕組みとして、IT受発注による効率化にも対応。
伊藤享兆 / 株式会社たけやま代表取締役
「房の黄金米」を提供する株式会社たけやまの代表取締役。高品質で美味しいお米を安定的に供給する要因として「精米と管理」が7割ほど起因すると考え2005年に創業。自社で米の栽培を行いつつ、協力農家を集め、機材や人材の提供をしたり、高値でお米を買い取るなどのケアをして、生産、管理、配送をより現代的におこなっている独立系農業法人の創設者。