「ポジティブに変わり続ける不確定な場をつくる」 溝端友輔
NOD代表 溝端友輔
2021年より始動した「FUTURE GATEWAY」は、KDDI総合研究所がこれまで培ってきた先端技術を生かしながら、新しいライフスタイルを実践する人々とともに、これからのスタンダードをつくっていくための共創イニシアチブです。当シリーズ[MY PERSPECTIVE]では、そんなFUTURE GATEWAYに関わる人々の価値観に迫り、一緒に未来社会を考えていきたいと思います。
当シリーズ第2回に登場するのは、建築マネジメント、空間プロデュースなどを行なう「NOD」の代表でありt'runnerの溝端友輔。FUTURE GATEWAY発足に際して、KDDI research atelierの内装リニューアルに際して空間戦略企画・設計を担当しました。今回は、そんな彼のFUTURE GATEWAYに対する想いを聞きました。
研究と実装がつながる空間にリノベーション
溝端友輔:株式会社NOD CEO。「今までにない可能性をつくる」というコンセプトを掲げ、ソフトとハードの両面から空間開発に関わる。フリーの建築ディレクター / プロジェクトマネージャーを経て、2019年に株式会社NODを創業。遊休不動産のマッチングプラットフォーム「RELABEL」や日本橋のOMO型商業施設「GROWND」、その1階にある完全キャッシュレスのホットサンド専門店「HOT SAND LAB mm」などを手がける。現在、3Dプリント技術を軸に、様々なクライアントとの新規事業開発に取り組んでいる。
- FG:
そもそも、どんな経緯でこのプロジェクトに関わることになったんですか?
- 溝端:
(FUTURE GATEWAY事務局メンバーである)加藤翼さんから「明後日KDDI総合研究所の方と一緒にお店行くね」とDMをもらって。面白い場所の事例として、僕たちがやっている日本橋の「GROWND」を紹介してくれたそうで。(KDDI総合研究所 執行役員 の小林)亜令さんがその話を聞いた翌々日にお店に来てくれて、話をしたのがきっかけでした。
- FG:
亜令さんの行動力すごいですからね(笑)。それがこの研究所のいいところなんですが。
- 溝端:
話をしているとKDDI research atelierは僕たちが普段作る場所のあり方に近いし、すごく相性がいいなと。それで盛り上がった結果「じゃあ空間頼むから!」と亜令さんに言われて。すぐに内装リノベーションを担当することが決まりました。その翌日から社内でいろんなブレストをして、2週間でプレゼン資料を準備して、その場でOKがもらえたので、すぐに施工を始めました。
- FG:
具体的に、KDDI research atelierを改装するにあたって考えたことを教えてくれますか?
- 溝端:
「10年後の生活様式を考える」というKDDI総合研究所の目指す研究方針と、「研究結果が社会実装されなければ意味がない」という課題感を知り、この場所を「生活に馴染んでいくための空間」にしたいと思いました。それはつまり、ラボラトリー(研究)としての機能とデモンストレーション(実装)を行き来しながら、社会実装を加速できる場所です。その場所は、作って終わりではなく、つねにアップデートして行く必要があります。そのアップデートを一緒にやっていきたいし、そういう価値観自体を提案しました。具体的にいうと、今回のメッシュを使ったアイデアに加えて、フレームやカーテンで仕切るような案を出させていただきましたが、基本的には空間をカスタマイズできて、研究と実装がつながるような空間を意識しました。
- FG:
実装にあたって、使用したマテリアルなどへのこだわりなどは?
- 溝端:
メッシュは通信インフラをイメージしています。ネットの網のように一見弱々しく見える構造を空間の軸として、その中心に情報が集まるような場をイメージしました。そこから、可変的に使える什器を完成させました。さらには、デジタル解析などの技術を取り入れて、その場で行われる会話や行動をデータ化してレポートにしたり、グラフィックとして壁面に投影したり、そんなアイデアも考えましたが、ひとまず什器を作って組み立てるというところまでを最初に完成させました。
- FG:
かなりスピード感のある仕事だったのかなと思いますが・・・。
- 溝端:
そうですね・・・。2月の末に提案をして、3月末の納品でした・・・(笑)。だけど、これが実現できた背景には、ベースの価値観が近いということがあります。これまで僕たちは遊休不動産(企業が活用していない不動産)を活用したプロジェクトなどをやってきましたが、不動産を活用して“能動的に都市で遊ぶ”ということを得意としています。だからこそ、クライアントも能動的に楽しんでくれるかどうかが重要なんです。
ハードとしての場が変わり続けるということ
- FG:
「FUTURE GATEWAY」のいいところは、会社として動くのではなく、関わるみんなが全員個人として動いていることで、個の集合体として、みんながベストなものを考えていることです。だからこそ、能動的にもなるし、何かに縛られることなく、いいものを作っていけるんだと思います。
- 溝端:
僕は「いかにポジティブにハードを変わっていけるか」をつねに考えています。普通はハードを変えるのってコストがかかるし、大変だけど、それをポジティブに捉えたい。だから、能動的に楽しんでくれる人とは波長が合うんですよね。
- FG:
そもそも、変わらないから“ハード”なのに、それが変わるって面白い発想ですよね。実際に什器にはキャスターがついていて、可動式になっているというのもその思想が反映されてます。
- 溝端:
そうですね。今までにない可能性を作り続ける、というのが会社の根幹にもあります。だからこそ、不動産においても余白というかアップデートの余地を作り続けています。
- FG:
「FUTURE GATEWAY」の大切にしたい概念の1つが「余白」なんですけど、余白がなければいいものは生まれないと思っていて、つねに新しい考えや声が入ってくるような場所にしたいと思っているんです。
- 溝端:
ぴったりのイメージですね。たとえば、僕が最近考えているのは「変わり続ける家具」です。コーヒーのかすとか卵の殻とかを原材料にして、3Dプリンターで家具を作れないかなって。弱い素材だからこそすぐダメになるんですけど、ダメになったらまた素材に戻して作り変えればいいんです。
- FG:
3Dプリンターって熱とか紫外線に弱いじゃないですか。だからこそ、変化していってもいいわけですよね。
- 溝端:
自分はそう思います。僕たちはスクラップ&ビルドをポジティブに捉えていて。2年前には「刹那性」を意識した「ツカノマノフードコート」という期間限定のフードコートの運営に関わったのですが、普通はチェーン店の集合体になりがちなフードコートという形態を若い人たちの挑戦的な場所に変え、解体までの半年間を次につなぎました。
「究極、建築を作らなくてもいい」
- FG:
話を聞いていると、普通は変わらない価値観を大事にするけれど、溝端さんの中にはそういう概念がない気がします。
- 溝端:
NODは元々は建築設計の会社ではありましたが、理想としてはアウトプットが建築や不動産ではなくてもいいと思っています。NODのパートナーには編集者もデザイナーもエンジニアもいて、クライアントが本当にやりたいことを実装できる体制をつくっています。たとえば、日本橋でやっている「GROWND」では、メディアを作って、オフラインとオンラインを行き来できるような場所として企画を考えています。誰もが身体性を拡張し、都市で遊べるようになるといいなと思っています。
- FG:
その考えこそが、私たちが目指したいOMO(Online Merges Offline)なんだろうし、ただ両者が補完するというのではなく、そこから新しい価値観が生まれていくような場所にしたいと思うんですよね。
- 溝端:
そのためには、KDDI総合研究所の技術も必要ですよね。技術協力をしていただきつつ、みんなが参加できるオンラインの都市を作ってみたいと思います。
「机上の空論」で終わらせないために、KDDI research atelierができること
- FG:
まさに共創関係が成り立つわけですね。ある意味でアーティストとパトロンの関係のように、アイデアを持つ人と、技術や空間を持っている会社が組むからこそ、新しいものが生まれる。ちなみに、KDDI research atelierという空間の未来にはどんな可能性があると思いますか?
- 溝端:
この場所の未来を考えるのが面白くて、実は勝手に次の展開のパースを作ったりしているんですが(笑)、一つ言えることは、あらゆるフェーズのアップデートを混在させていきたいということ。というのも、この場所にはいろんなステークホルダーがいます。研究者の方がいて、パートナーの企業さんがいて、事業者もいて、それぞれの戦略や目指したい場所がある。それらは同じ方向を向いているようで、当然少しずつ違っているんです。それと同じように、この場所も、どう使いたいかは人によって違っています。だけど、自分が手を加えていい場所と、そうではない場所が混在している。そうして、予期せぬアップデートがミックスされることで、よりいい場所になっていくはずなんです。飲食店を作る時にも、店長の意志だけでお店が変わっていくと面白くなくて、いろんなフェーズでのアップデートが重なるからこそ、面白いものが生まれる。設計した通りに空間が使われないからこそ、それをポジティブに捉えて、アップデートしていきたいと思います。
- FG:
最初に話していたデジタル分析的なことも、組み込んでいきたいですね。
- 溝端:
そうですね。サインも床に定点投射することで可変的にするとか、この場所で行われる行為のデータを壁にビジュアライズするとか。什器にしても、有機的な象徴として無機的なメッシュで植物を育てたりしてみたいです。
- FG:
もはや虎ノ門だけじゃなくて、スクリーンがあって、日本全国に散らばるKDDI research atelierのような場所とつねにつながっているとか、空間の価値や概念自体もアップデートしていけるような気がしています。ここに集まる人たちの声を反映しながら、どんどんと変わっていく場所ですね。予測不可能というか。普通なら会社としては未来の計画を立てたいからこそ、予測したいと思うのですが、不確定だからこそ生まれるものだってあるわけですよね。
- 溝端:
同じことをやりたくはないです。つねに次の可能性をさがし、新しいことをし続けていたい。普通はある仕組みを作って、それを使いたいと言ってくださるクライアントに対しては、そのまま実装をすればいいわけですが、僕はどんな案件でも新しい、不確実なことを入れたいと思っています。会社としてはリスクの少ない仕組み化されたものを提案した方が工数も少ないし、儲かるわけですが、僕はやっぱり新しいことをしないと意味がないと思っています。
- FG:
それが溝端さんのいいところなんだと思いますよ。
- 溝端:
これまでもたくさんの案件をやらせていただきましたが、ほとんどがあらかじめ決められた計画の中で動くというもので、それは当然そうなのですが、新しいビジョンに向かって一緒にリスクを抱えてくださることって案外少なくて。今回はむしろ変化を受け入れてくれるという点で、いい未来を作っていけるんじゃないかと確信しています。この場所のKDDI research atelierという名前がいいですよね。ただリサーチするだけじゃなくて、それを実装していくという意味での「アトリエ」という言葉。ただリサーチだけしていても意味ないですから。
- FG:
この場所で、パートナーや関わる人たちとしか作れないものが絶対にあると思っていて、より良いものを生み出していくために、今後もぜひ溝端さんに関わっていただきたいと思います。
- 溝端:
もう、この場所に住みたいぐらいです(笑)。いろんな声を聞きながら、その場ですぐに改修しちゃうみたいな。僕は普段からよくサンドバッグになるんですが、さっきも言ったように同じ方向を向いているようで誰しもちょっとずつ目線がずれているものなので、だからこそ、間に入ることでそれらの相乗効果を作っていくというのが僕がやりたいことなんだと思います。