



二次元のイラストやアニメーションを通じて感情を体感・共有できるように イラストレーターmoi
イラストレーター moi
KDDI総合研究所が2021年に立ち上げた「FUTURE GATEWAY」。KDDI research atelierがこれまで培ってきた技術を生かしながら、新しいライフスタイルを実践する人々とともに、これからのスタンダードを作っていくための共創イニシアチブです。この連載では、そんな「FUTURE GATEWAY」に関わる人々の価値観に迫り、一緒に未来を考えていきたいと思います。
今回は昨年オープンした「FUTURE GATEWAY」の特設サイトでイラストを描いてくれたイラストレーターのmoiさんに、仕事に対する考え方や2030年の理想のライフスタイルについて、話を聞きました。
演劇の世界から二次元のものづくりへ

- FG:
今回moiさんには、FUTURE GATEWAYの特設サイトにてイラストを書いていただいたのですが、普段はどのように働かれているのですか?
- moi:
現在はモーショングラフィックスの会社に勤めながら、個人でもイラストレーターやアニメーターとして活動をしています。社会人としては5年目、フリーでお仕事を頂けるようになって3年目です。
- FG:
会社と個人の両方でものづくりに携わっているのですね。ものづくりに興味をもったのは、何かきっかけがあったのですか?
- moi:
幼い頃から水戸黄門がすごく好きで、ずっとお芝居に興味がありました。だから、中高で演劇部に入ったんです。両親も音楽や映像をやっていたので、ものをつくって人に見てもらうことが身近にあったんですよね。でも、演劇をする中で「私は演技をする方ではない」と思って、脚本や演出をするようになりました。大学も演劇学科の演出コースに入って、学生劇団で脚本や演出を担当していました。
- FG:
そこからどのようにイラストやアニメーションの世界へ
- moi:
大学卒業後の将来を考えていく際に「ゼロから何かを生み出して、自信をもってそれを進めていけることは才能だ」と思ったんです。当時の自分にはその自信がなかった。そんなときに、大学の授業で広告の考え方を知りました。それが、今まで自分がしてきたものづくりとは真逆だと思ったんです。そこに惹かれて、演劇の古典的なものを活かしてさらに、そこに広告のような開放的なアプローチがあれば、ものづくりが広がると思ったんです。でも、自分の手を動かして何かをつくることがやっぱり好きで。広告的なものづくりとの両立を考えていた中で、表現の手法としてモーショングラフィックに出会いました。今は広告のお仕事にも関わらせていただいていますが、課題を解決していく面白さや奥の深さに魅力を感じています。一方で、広告のお仕事では自分のものづくりと方向性が異なることも当然あります。それで、バランスをとるためにインスタグラムを始めて、イラストを描き始めたんです。
気持ちに一貫性を持ち、ものづくりの幅を広げていく

- FG:
インスタグラムの作品を見ていると、moiさんのイラストにはmoiさんにしか出せない特別な世界観があると感じます。
- moi:
ちょうど最近、「私らしさ」について考えていたんです。お仕事で描いたイラストを見たクライアントさんから「moiさんらしくない」と言われたことがあって。そもそも、環境が変わるとものづくりの仕方も変わっていくので、「これが私らしさだ」って断言するのは難しいですよね。それで、私らしさってなんだろうと考えてみたのですが、ものづくりで私がブレないようにしているのは、誰かがワクワクしてくれたり、心が動くようなものをつくることです。
- FG:
心が動くような作品ってどんなものですか?
- moi:
たとえば、演劇を観ているうちに物語に入り込んで登場人物と一緒に感情が動いていくことがあります。平面のイラストではそれがなかなか難しいんですが、観てくれる人と温度感を共有できたら嬉しいなと思うんです。幼少期に読んでいた本がキラキラしていたのを思い出すのですが、そんな感覚。もちろん人によって感じ方は違うわけですが、私としては自分の気持ちに一貫性を持ってものづくりをしているつもりです。
- FG:
会社員とフリーランスを両立していくなかで、自分のものづくりに良い影響はありましたか?
- moi:
一人だとできることしかやらなくなるので、なかなか幅を広げられないんです。クライアントワークでは私が考える以上のアイディアや表現方法を提案してくださるので、挑戦できることがたくさんあります。両方あるからこそ表現の幅が広がっているような気がするんです。
- FG:
一方で、今の働き方だと大変なこともあるのでは?
- moi:
やっぱり、常に時間はないですね(笑)。ご依頼をたくさん受けても、時間がなくて満足のいかないものができてしまうことがあると思います。急いでいろんなものをつくっても、たくさんの時間をかけて一つの作品をつくる人に敵わないなと思うんです。でも、いろんなお仕事で失敗をしたり、試行錯誤して得意なことを見つけていく時間も大事ですよね。そうやって自分の心が何に対して動くのかを知ることで、モチベーションを保っているような気がします。
人と人が繋がり、心が動くものを

- FG:
今回ウェブサイトのイラストを描いていただいたのですが、FUTURE GATEWAYの第一印象はいかがでしたか?
- moi:
私はいわゆる最新技術やITから離れた生活をしているので、最初はプロジェクトの概要が難しそうだなと思いました。でも、私と同じように感じる方もきっといて、それがこのプロジェクトの抱えている問題点なんだろうとも思ったんです。だから、私が「よくわからない」と最初に思った感覚を大事にして、同じように感じる方にも「なんだか楽しそう」と感じてもらえるイラストを描こうと思いました。普段からポップな絵を描いているので、私にご依頼が来たのもそういう意図があったのかなと。難しい言葉にひっぱられないように、ビビッドな色を使ったり、丸みを帯びた可愛らしいアイコンにして、ラフでカジュアルな表現を意識しました。
- FG:
イラストはすごく好評でした。moiさんはこれからやってみたいことや夢はありますか?
- moi:
誰かと一緒に空間や感情を共有しあうことがとても好きで、そういうものづくりを目指してきました。これからもイラストやアニメーションをきっかけに、人の交流が生まれる場をつくることができればいいなと思います。一つ大きな夢があって、私のイラストがコンセプトになった公園をつくりたいんです。自分が幼かった頃の感情や体験を今でもすごく大事にしていて、それがずっと自分の根底にあるんですよね。私の作品によって子どもたちの心が動いたり、大きくなったときにものづくりに興味をもってもらえるといいなと思っています。
- FG:
すごく素敵です。ぜひつくりましょう。では、最後にmoiさんは2030年にどんな生活や価値観があたりまえになっていてほしいと思いますか?
- moi:
デジタルが発達して、作品を観てもらえる場が増えたのは良いことですよね。打ち合わせもオンラインで効率化したり、やらなくていいことをテクノロジーに任せることで、ものづくりに使える時間が増えた感覚があります。ただ、手間暇かけて何かをつくることに対する見方や評価は、この先も変わってほしくないです。いろんなことが便利になっても、手をかけて、試行錯誤してものづくりをすることの価値はむしろ上がっていってほしい。ものづくりには人間味や関係性が表れるので、そこに対する感覚が失われていかないようにしたいと思います。

アニメクリエイター。1993年東京都生まれ。2019年より活動をスタート。ポップなイラストを中心としたアニメーションを制作。ブランドとコラボした店頭サイネージや広告アニメーション、MVのディレクションなども行う。2020年CIBONE GINZASIX店にて個展を開催。2021年UNIQLO TOKYO店での展示やUTコラボなども制作。
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